「Waddesdon Manor」で大富豪ロスチャイルド家の財宝と生活を垣間見る

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ユダヤ系大富豪のロスチャイルド家の豪邸「Waddesdon Manor(ワデスドン・マナー)」が、イギリスのバッキンガムエリアにある。今回初めて行ってきたが、大変な豪華さで驚きの連続だったので、そのハイライトを紹介したい。

130年前に建てられたロスチャイルド家の豪邸

このワデスドン・マナーは、18世紀後半にドイツで興った銀行家一族のロスチャイルド家のもの。オーストリア、フランス、イギリス、イタリアへと分家した彼らの、イギリス分家の館というわけだ。

ファーディナンド・ド・ロスチャイルド(1839〜1898年)が1874〜1885 年に建てた、ネオルネサンス様式の邸宅である。彼はオーストリア(ウイーン)分家だったがイギリスに渡り帰化した人物。美術品の収集にも熱心で、邸宅内のコレクションはそれに大いに依っている。

ファーディナンドの他に、公式のロンドン分家のメンバーがここで過ごしていたとされる。

ちなみに、イギリスのロスチャイルドのお宝は大英博物館内の特別展示室でも見ることができる。

「Manor」とは何か?

イギリスでは、結構な割合で「Manor house」という言葉を目にする。これはいわゆる地方にある貴族の大きな別荘とか邸宅のことで、カントリーハウスとほぼ同義である。厳密には、Manorは周辺の敷地や庭なども含めたものを指すのだそうだ。

このマナーハウスは、週末用の別荘として建てられたもので、その目的はゲストにその富を披露してもてなし、パーティーをし、コレクションを愛でるためである。なので、実用性の範疇を超えた「これでもか」という飾り立てっぷりになっている。

城のような内部では豪華な部屋が次々と出てくる

肝心の内部は、貴族の邸宅の域にとどまらずもはや城のような印象すら覚える。ここは「Red drawing room」。その名の通り赤い壁紙が映える。

「Drawing room」とは、いわゆるゲストがくつろぐ応接間のことで、絵やドローイングと何か関係があるわけではない。

寄木細工のキャビネットから繊細な刺繍が施された椅子まで、贅を尽くした家具の数々が並ぶ。

赤い応接間からつながっているのが「ダイニングルーム」。まるで映画のロケ地に使われそうな雰囲気だ(実際、この館はさまざまなドラマや映画のロケ地になっている)

巨大なタピストリーが壁画のようにずらりとかかっている。こんなところで食事をとったら、庶民の私には目をやる場所が多すぎて味や会話に集中できなそう…などと思ってしまった。

こちらは「ブレックファーストルーム」。そう、当然のように、朝食と夕食をとるのは違う部屋なのだ。ここで朝食をとるのは主に男性で、女性は寝室で朝食をとったという。

堂々とした七面鳥の雄を象った陶器。

戯れる子ヤギと親ヤギの像。親ヤギの舌の薄さ、毛皮を舐め取るような表現は見事である。七面鳥とヤギどちらも1700年代前半の作品だ。

細部もこだわり抜いたインテリア

この後も部屋がいくつも続くのだが、小さな調度品一つとっても一級品ばかり。

室内にある手洗い場。花の精? 水の精? の口から水が出る仕様になっている。カラフルな大理石の壁と白い彫像の対比が美しい。

部屋を仕切るカーテンの裾の飾りもまた華美である。色とりどりの小さな房が並ぶ。開いたところはさぞかし綺麗なのでは、と思ったが、見ることは叶わなかった。

 

見辛いが、このランプの土台には中国様の花や風景が描かれている。この館内には数多くの東洋趣味の調度品があり、これもその一つだ。まさに、全世界から一級品をコレクションしたのだろう。

家具の保存・維持のため、外部からの光を遮っており全体として部屋が暗いのが少し残念だが、保存修復の観点からそれは仕方がない。

こちらは調度品ではないが、ロスチャイルド家のボタンコレクションとして展示されていたもの。こんなボタンがこの世にあるのか、と思わざるを得ない。一つ一つが輝く花のようだ。

最後にこの館を所有していたジェームズ・デ・ロスチャイルドの母親が収集したものだという。
ボタンも極めるとコレクションとして成立する美しさがあることを知った。個人の趣味に耽溺しきったスタイルのコレクションは、嗜好に浸りきった感じや陶酔感を醸し出していて心地よい。

屋敷内の「ギャラリー」の見事なコレクション

細長い空間で数多くの美術品を展示する「ギャラリー」もある。こちらはイーストギャラリー。

きらびやかな機械仕掛けのオルゴール。実物は動いていないが、作品の前に設置されたスクリーンで動く様子を見ることができる。同じ動画はこちら。

像の鼻や尻尾、耳がキコキコと動く。目までぐりぐりと動いていたのには感心した。

このオルゴールの横には、象の頭の形をした帽子を被った青年の胸像が。象つながりである。なんだか現代のダンボの着ぐるみとかそういう子供用アニマルハットにもちょっと似ている。当時実際にこういう帽子があったのだとしたら、鼻は垂れて邪魔にならなかったのかが気になる。

フランチェスコ・グアルディ「The Bacino di San Marco with the Molo and the Doge’s Palace, Venice」1755〜1770年

ヴェネツィアで活動していた、18世紀イタリアを代表する画家の作品。2枚1対の巨大な絵画で、このギャラリーで圧倒的な存在感を誇る。ドゥカーレ宮殿(中央やや左側の四角い建物)の見えるヴェネツィアのサン・マルコ湾の景色を描いたものだ。

フランチェスコ・グアルディ「The Bacino di San Marco with the Churches of San Giorgio Maggiori and Santa Maria della Salute, Venice」1755〜1770年

こちらも、同じ湾とその周辺の教会群をモチーフにした作品。どちらも落ち着いた色合いで、大変写実的な景観が緻密に描かれている。当時のヴェネツィアは貿易で栄えた共和国で、「アドリア海の女王」と呼ばれていた。

海に囲まれ、国内にも巨大な運河が流れる水の国家であったヴェネツィアは特別な存在感を誇っており、風景画として素晴らしい題材となったに違いない。

この絵を目の前にすると、ガヤガヤとした船乗りたちの話し声や、街の賑わいが聞こえてくるような感覚に陥る。たまに視覚的表現で聴覚を刺激する作品というものがあるが、このペア作品はその一つである。

イーストギャラリーを抜け、続くウエストギャラリーに入ってすぐ脇にある部屋が、この「Grey drawing room」。ここは男性陣が社交をしている間に、女性陣が待つ部屋で、男性たちはのちにここで婦人たちと合流したという。

豪奢な本棚。上に乗っている壺は白象の頭が二つついた風変わりなもの。同じデザインの壺がロンドンの貴族の邸宅兼美術館、ウォレスコレクションでも見られる。

「ウエストギャラリー」。ここでは、ゲストが新聞を読んだり手紙を書いたりするために使用したという。キャンドルホルダーの一つ一つまで、丹念に装飾が施されている。

新聞読んだり手紙を書くのにこんな時計いる?…なんて野暮なことを言ってはいけないのだ。当時、電話こそ発明はされていたが、情報伝達の手段としては「紙」が主流だったのだ。新聞も手紙も、外部の情報取得や交流のためには、欠かせない重要なものであった。

そんな重要なものにまつわる特別な時間を、極上の空間で快適に過ごしたいと思うのは当然だろう。それを貴族趣味で実現したのがこの部屋であるというわけだ。

ヴァン・ダイクの工房「初代カリニャーノ公トンマーゾ・フランチェスコ・ディ・サヴォイア」1635〜1650年

ギャラリーを出たところにある、縦3mを超える巨大な肖像画。1881年以前にファーディナンド男爵が「ヴァン・ダイクのオリジナル作品」として手に入れた絵だが、実は工房による模写であることが判明したという。オリジナルはイタリア、トリノのサバウダ美術館が所蔵している。

この初代カリニャーノ公は、イタリア王家の始祖である。この作品は模写ではあるが、あまりに優美な表現に目を奪われること間違いなしだ。特に白い馬のシルクのような毛皮とたてがみの美しさ、そしてカリニャーノ公のこちらを射抜くような力強い眼差しには、惚れ惚れしてしまう。

まだまだ出てくるゲスト用の豪華な部屋

こちらは「モーニングルーム」。朝日が入る位置に増築された部屋だ。

ここも、「朝にゲストが新聞を読んだり手紙を書いたりするために使用していた部屋」だという。ここのゲストは新聞と手紙に固執しすぎでないのか、などと思ってはいけない。重要なことだったのである。

天板可動式机」1774年

この机、フランス製の家具の中で史上最大のものだと言われる。色々な要素と装飾を盛り込みまくったやりすぎ感があるものなのだが、突き抜けていて逆に面白い。上方にある大きな時計は、実際に机に座る人からは見にくいため、下部に小さい時計が備え付けてある。

また、机そのものも高さがありすぎてあまり快適ではなかったらしい。机の上に置かれているレザーナイフには、以下のロスチャイルド家のモットーが刻まれている。

Concordia, Integritas, Industria(「調和、誠実、勤勉」という意味のラテン語)

ここのコレクションにはフランス製の家具や調度品もよく見られるが、最後の当主ジェームズ・デ・ロスチャイルドが元々パリ・ロスチャイルド家の流れをひいているため、フランス製のものが多くコレクションに入ったのだという。

貴族が使用する寝室や浴室はどんなものだったのか

2階では、さらなる応接室やダイニングルームの他、当時ゲストが使用していた寝室や浴室も見ることができた。

こちらが浴室。暖炉があるとはさすがだ。

寝室のうちの一つ。ベッド横の小さな台は夜中に使う用のおまる(簡易トイレ)。貴族でもおまるを使わなきゃいけないのか…と衝撃を受けた。

小さなダイニングルーム。カトラリーを使用したシャンデリアはモダンアートで、2003年制作のもの。ここにレイアウトされている大きなワインボトルには、「Rothchild」の文字が入っている。

そう、ロスチャイルド家はワインメーカーも所有している。5大シャトーと呼ばれる農園のうち二つ「シャトー・ラフィット・ロートシルト」「シャトー・ムートン・ロートシルト」がロスチャイルド家のものであり、最高品質のワインとして名高い。

そしてこのワデスドン・マナーにも、巨大なワインセラーがあるのだ。

ギフトショップと敷地散策も楽しめる

ギフトショップには、名ワインがずらりと並ぶ。1万5000本ものボトルを貯蔵しており、ロスチャイルド系列ワインの最大のコレクションを誇る。最古のもので1868年のビンテージもあるとか。

その他にも、チーズ用のクラッカーやジャムなど、ワインに合うおつまみや調味料、レシピブックの他、クッキーやアクセサリーなど洗練されたギフトが揃っている。

その中に燦然と輝く我が国の三杯酢とすだちポン酢を見つけてしまった。ロスチャイルド家のギフトショップに選出されたのは嬉しいが、なぜこのチョイスを…?
その横には「Yuzu mayonnaise」と「Wasabi mayonnaise」のローマ字も見える。日本食ブームの波もここまで及んでいた。

マナーハウスの敷地内は大変広く、天気のいい日は緑豊かな環境で森林浴ができる。入口/出口〜ハウス間は無料のシャトルバスが出ているが、歩いても15分くらいなので、散策するのもおすすめ。

以前は馬小屋として使われていた「stable」スペース。今は建物内はカフェになっていて、ちょっとした軽食やアイスクリームなどを売っている。散策がてらここでリラックスした休憩をとるのもいい。

ロンドンから日帰りでも行けるこのスポット、貴族の世界に足を踏み入れてみたい人にはぜひおすすめしたい。


Waddesdon Manor

住所:Waddesdon, Aylesbury HP18 0JH

料金:ハウス+ガーデン…大人21ポンド(ガーデンのみもあり)、子供11.50ポンド、5歳以下は無料

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Posted by Sara