V&A博物館「タペストリー(織物)展示室」で幻想的な中世の作品を鑑賞しよう

◆ミュージアムの展覧会, V&A博物館

ロンドンのV&A博物館(ヴィクトリア&アルバート博物館)に、中世の素晴らしいタペストリー(織物)が見られる展示室がある。Level3(日本の4階に当たる)の第94室。ひっそりと隠れているので少し見つけにくいが、その分人は少ない。

この記事では、この魅力的な展示室と、その中でも興味深い題材を扱ったタペストリー作品について紹介していきたい。

壁画並みの巨大なタペストリーに囲まれる

ここがその部屋だ。ごく小さい展示室だが、一つ一つの作品の細部まで見ていくのに時間がかかるので、これくらいでちょうどいいと感じる。

壁掛けの織物であるタペストリーは、ヨーロッパでは長い間王侯貴族の重要な所有物であった。応接室やダイニングルームなどにかけられ、ゲストと共に楽しんだのである。

また、識字率の高くなかった当時は、視覚的に物語を表すタペストリーは物語を共有する媒体としても重要なものでもあった。字が読める読めないに関係なく、眺めれば何が表されているか理解できたからである。

この展示室では、中世〜ルネサンスのタペストリーの傑作を展示している。経年劣化や光による色褪せが起きているが、それでもその魅力は健在だ。

多様な色で彩られた幻想的な伝説の世界

ユニコーンと千花模様 1500年 南オランダ 

フランスの有名タペストリー「貴婦人と一角獣」を思い出させる作品。色とりどりの花が咲き乱れる中、純白のユニコーンが映える。

さまざまな植物や花で構成された千花模様はタペストリーのモチーフとして人気で、象徴的な動物が加えられるのが一般的であった。ユニコーンは処女にしかなつかないという伝説から、純潔を象徴する。またその角には不思議な力があり、解毒の作用があるという。

一角獣の周りには大小さまざまな鳥が歩き回り、楽園のような光景を思い起こさせる。

当時の狩りのシーンを生き生きと描いた作品

白鳥狩りとカワウソ狩り 1430〜40年 南オランダ

多人数がひしめく大きなタペストリー。複数種の動物を狩る場面が描写されている。人間と比べると異様に小さな建物(手前中央よりやや左)や、後景がやや唐突に表されていて、なんだかおとぎの国に迷い込んだような感覚を覚える。

画面中央、白鳥の巣で子ども(?)が白鳥の巣に近づく場面。下部では白鳥が反撃している。

右側に立つカップルは美しい衣装を着ている。当時の服装や道具を知れるという点でも貴重な作品である。

画面左では、川を泳ぐカワウソを猟犬と共に捕らえる場面が展開されている。カワウソの髭や植物の葉一本一本まで織って表現されているのには驚かされる。すべてを仕上げるのにどれだけ時間のかかったことか。

画面右側には、熊狩りの様子が表される。下部では一頭の犬が首筋に噛みつき、男が剣で突こうとしている。女性が犬をけしかけているのも興味深い。当時は女性も狩りに参加していたのだろうか。

その上には、おそらく冬眠中の熊をおびき出す場面、熊が人間を襲う場面が描かれている。人間を襲っている熊は、下敷きになった人間の剣が背中を貫き、他にも槍で攻撃を受けて血を流している。

犬の中には服を着せられているものもいて、この頃から人間は犬の服を作っていたのか…とちょっとおかしかった。

鹿狩り 1440〜50年 南オランダ

中世のヨーロッパでは、鹿狩りは上流階級によって頻繁に行われるスポーツだったが、単なるスポーツではなく、洗練されたエチケットのもとに行われるいわば儀式のようなものでもあった。

当時の富裕層の贅沢な衣装が細かく描かれている。男性も女性も、大きな帽子を被っているのが印象的だ(ものによってはターバンのようにも見える)。

中央下部には、仕留めた鹿を処理している人々の姿がある。その後ろにはいちゃついているのか何なのか、女性に抱きつく男性の姿もある。

チーズだかパンだかに見えるものをスライスして鹿のお腹に詰めているのは、何の意味があるのだろうか、大変気になる。こんなシーンを見たのは初めてだ。

…と思って調べて見たら、実はこれは犬のためのものであるらしい。

当時、猟犬の主な餌として与えられていたのはパンで、狩りをした時には彼らの仕事への対価として、獲物の肉を少しと、血に浸したパンをあげていたという。

何とも興味深い風習である。確かに、当時は肉も今より貴重なものであっただろうし、犬の餌も安価でいつでも手に入るパンだったのだ。

その左側には、今まさに鹿を捕らえる瞬間の様子が表される。猟犬が鹿の背中に食らいつき、男性が武器でとどめを刺している。

右上の男性は、動物の角で作った水筒から水を飲んでいる。この水筒は中世ヨーロッパでは一般的なものであった。

鷹狩り 1430〜40年 南オランダ

中世ではまた、鷹狩りも広く行われていた。ここでは、鷹を操り水鳥を狩る様子が描かれる。「白鳥とカワウソ狩り」「鹿狩り」と合わせて、中世の貴族たちの野外アクティビティの様子がよくわかる作品だ。

イギリスの鷹狩りについて詳しくはこちらの記事をどうぞ。

中央では、鷹を水鳥めがけて離す様子が見られる。水鳥は慌てて川から飛び立ち逃げ惑う。

また、手前の青い衣服を着た女性の、ベールに透けた顔の表現は見事である。織物で透けた様子を表現するのは、より増して緻密な作りが求められるに違いない。

馬に乗って狩り場所に向かう男性陣(手前)と女性陣(奥)。他の狩り場面の作品と比べても、彼らの衣装は特段に華美なものである。豪華な飾りや刺繍で覆われ、色合いも美しい。

馬もかなり洒落た装飾の施された馬具を身に着けている。

右の後景には、(おそらく)幼い羊たちを率いる羊飼いらしき人物がおり、牧歌的な雰囲気が漂う。じゃれ合っている子羊が可愛い。遠目から見ると子犬のようにも見える。

美と死が共存する画面

死の勝利、または運命の三女神 1510〜20年 南オランダ

ギリシャ神話を基にした題材である。古代ギリシャでは、運命が人間の寿命を決めるとされていた。この三人の女神は、右からクロートー、ラケシス、アトロポスという三姉妹で、クロートーが運命の糸を紡ぎ、ラケシスがその長さを測り、アトロポスが切るという役割を担う。

彼女たちの足の下に横たわるのは、純潔の擬人化された姿である。ここでは、美しい三姉妹は死を表す。死が純潔に勝利した場面なのだ。

こちらの作品も、背景は千花模様で埋め尽くされている。美と残酷さが綯い交ぜになった空間である。


スケールの大きなタペストリーを静かに見て歩きたいなら、この展示室は絶対におすすめだ。遠くから全体像を眺めてもいいし、近くまで寄って糸の1本1本を観察してもいい。
人によって、さまざまな発見があることだろう。


V&A博物館

住所:Cromwell Rd, Knightsbridge, London SW7 2RL

入場無料

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