トラファルガー広場のライオン像とその作者ランドシーアの圧倒的な動物画

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広場には、イギリスの誇る18世紀の海軍の英雄、ネルソン提督の彫像を戴くネルソン記念柱がある。 その根元には、4体の大きなライオン像が柱を守るように伏せている。 ライオン像とネルソン記念柱、広場の真ん中にある噴水、そしてドーム型建築が印象的なナショナル・ギャラリーが揃ったこの風景は、ロンドンの中でも特にアイコニックだ。 柱は1840年~1843年にかけて建造され、当初はライオン像はなかった。この像が付け加えられたのは1867年のことだ。

悠々とした雄々しいライオン像

150年以上もロンドンの中心を見守り続けてきたこのライオン像、今でもその魅力は衰えることがない。 人間の大きさと比較してもらえればわかると思うが、一頭一頭が大変巨大な彫像だ。重さは7トンに及ぶ。 それに加え、細部まで及んだ写実性と、どっしりとした存在感が、堂々とした姿をさらに引き立てる。 たてがみの一本一本がわかるほど細かく表され、また筋肉や骨格もありありとわかる。本物のライオンが石にされてしまったかのようである。 モデルは、北アフリカに生息していたバーバリライオンで、ライオンの中では最大の種。1922年に絶滅したとされていたが、1996年に再発見された。また近年モロッコ王のプライベート動物園で32頭も飼育されていることが判明し、現在繁殖の取り組みが行われているという、驚きのエピソードを持つライオンなのである。 ちなみに、数年前に女性がこのライオンに登った後滑り落ちて死亡したというニュースが流れたことがある。危険なので登らないように注意。

日本の三越百貨店のライオン像のモデル

この像が、銀座三越デパートの正面玄関にあるライオン像と似ていることに気づいた方もいるかもしれない。実は、三越のライオン像のモデルとなったのが、このトラファルガー広場のライオンだ。三越の当時の支配人がイギリスを視察した際に注文した。 三越にライオン像がやってきたのは1913年。製作者は異なる人物だが、当時イギリスでも大きな話題となったという。

作者エドウィン・ランドシーアはイギリスで愛される動物画家

トラファルガー広場のライオン像の作者は、イギリスの有名な動物画家、エドウィン・ランドシーア(1802年〜1873年)という人物である。

本物のライオンを観察する

若い頃から才能を発揮し、さらに動物解剖学を学んだランドシーアの作品は、生き物の体に対する正確な理解と絶え間ない観察から生まれたリアリティを持つ。 このライオン像を制作するにあたり、ランドシーアはロンドン動物園で死んだライオンの死骸をスタジオに引き取り、スケッチを重ねた。あまりにも長くスケッチをし続けたので、死骸は腐り始めてしまったという。 そのためか、ライオン像の足はライオンのものではなく猫の足を参考にしているとされる。

「ライオンの習作」1862年 テート・モダン蔵 ©️tate 

これは油絵のスケッチ。隆々とした筋肉と凄みのある顔が素晴らしい。ドシドシと、歩く音が聞こえてきそうだ。この観察力を基にあのライオン像ができたのは何ら不思議ではない。

ランドシーアの代表作

「谷間の王者」1851年 スコットランド国立美術館蔵 ランドシーアの代表作である、雄鹿を描いた作品。元々は、現在イギリスの国会議事堂であるウェストミンスター宮殿に飾られていたものだ。 幸い、この作品を生で見る機会がロンドンであったのだが、鼻の穴の部分、本当に穴が空いているように見えて驚いて凝視してしまった。イリュージョンすら作り出せるのか。てらてらと濡れたように光る表現も見事。 冠のような角と、力強く遠くを見据える眼差しは、王者の風格にふさわしい。このように12に枝分かれした角を持つ鹿を英語では「royal stag(王の鹿)」という。

「聖域」1842年 ロンドン・ナショナル・ギャラリー

日暮れの柔らかな光が画面を包み込む、情緒ある光景である。「谷間の王者」の約10年前に描かれたもので、これが彼の初めての象徴的な鹿の作品と言われる。 画像だと分かりにくいが、実際に見ると鹿の首から水滴が滴りおちている。私が彼の作品の実物を見て感じるのは、作品には舞台設定があり構図も表現も計算されたものであるのに、まるで目の前にその動物たちがいるかのように、現実味を帯びているということだ。 彼の目を通して表された動物たちは、あまりに尊く美しく、理想的なのに生々しい。圧倒されてしまう。

犬種名ともなったランドシーア

また、ランドシーアは犬をよく描いた。犬の絵にかけては右に出るものはいない画家として名声を馳せた。  

「救出成功」1856年 

ランドシーアが特に好んで描いた、白と黒のニューファンドランド犬。泳ぎが得意なこの犬種は、水難救助犬として活躍していた。これはその犬種が海から子供を救出した場面を描いたもので、ランドシーアの犬の絵の中でも有名である。 この白黒の犬種は現在、「ランドシーア」という名前で呼ばれており、犬種名として国際畜犬連盟(FCI)に認定されている。 ランドシーア犬↓ ※wikiより

「Chevy」1868年 デトロイト美術館

仕留めた鹿のもとに誇らしげに伏せる猟犬。鋭い眼光がまっすぐにこっちに向いている。 狩りの最中を写真に捉えたような切り取り方だ。生きている動物と死んでいる動物、生と死をそのままさらりと描き出した作品。 [caption id="attachment_15331" align="aligncenter" width="840"] 「Doubtful Crumbs」1858~59年 ウォレスコレクション蔵 (c) The Wallace Collection[/caption] 大型犬の骨をうらやましそうに見つめる子犬の絵。ふわふわとした毛皮とユーモラスなシチュエーションが可愛らしい。毛の一本一本まで触れられそうだ。 こちらはロンドンのウォレス・コレクションの常設館で見られる作品。もっと詳しい説明はこちらから。 ウォレス・コレクション珠玉の絵画9選!見どころと解説
ランドシーアは、生前から高く評価された画家だった。女王ビクトリアから依頼を受ける宮廷画家としても働き(「谷間の王者」もそのうちの一つである)、「Sir」の称号も得た。 しかし30代にして精神を患い、うつや心気症に苦しみアルコールと薬に溺れるようになる。晩年には「狂乱した」状態であったという。神経衰弱に苦しみながら、彼はこれらの数々の作品をどんな思いで作り出したのだろうか。 日本ではあまり知名度がない画家だが、彼の表現した魅力的な動物たちが一人でも多くの人に知られてほしいと思う。 他の画家の動物画についてはこちらの記事をどうぞ。 動物と静物を描く技術を競った「狩猟画」の魅力を紹介]]>

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Posted by Sara