V&A博物館常設展の2階(日本でいう3階)にある第70~73室には、大変美しい家具や調度品のコレクションを見せる「Rosalinde and Arthur Gilbert Collection」がある。
1900年代にファッションレーベルを営んでいた夫婦が収集した美術品で、2008年からV&A博物館で展示が始まった、比較的新しいコレクションだ。コレクションとしては新しいものの、作品は中世のものから1900年代のものまで幅広い。
あまりに美しい品物だらけなので、その中から特に厳選したものを写真付きで紹介していきたい。
細部まで凝った華美な調度品の数々
この展示室の入口で客を迎えてくれる存在であり、またこの展示室で絶対に見逃せないもの。超絶技巧を見せつけるような銀細工作品なので、行ったら絶対に見てほしい。
制作年は1985年と、この展示室内の他の作品と比べたらかなり最近である。
360℃どこから見ても完璧な白鳥の姿に、とにかく見とれる。翼を広げる瞬間、時を止められてしまったような等身大の白鳥の姿。
この羽毛の細密さと滑らかさを見てほしい。そして1枚1枚の薄さ。本物の羽毛を銀色に塗ったのでは? と思ってしまうほどの優美さと柔らかさを再現している。
見る者が映り込むほどのまばゆい金のくちばしと、生きているかのような瞳の表現にも感嘆した。
見た途端「わー可愛い」とくぎ付けになってしまったカップ。丸っこくてコロコロしているが、顔は確かにきりっとしたワシ系の鳥を思わせる。翼部分はヒンジがついていてパタパタと動くようになっている。
羽毛や足の表現など全体としてかなり細かいのに、翼だけ大幅にデフォルメされているのが余計可愛さを加えているような気がする。
大きな巻貝をそのまま使ってカップにしてしまった美しい品。キャプションにはturban shell cupとあり、turban shellはそのまま検索するとサザエという訳が出てくるのだが、これはサザエにしては大きすぎるし、オーストラリア付近で採れたものだという(サザエは日本と韓国にしかいない)から、サザエに似た巻貝なのだろう。
遠いところからはるばるヨーロッパまで運ばれてきた貝殻は、職人たちの手によって華麗なカップへと変身させられたのだ。
土台は銀細工でできた亀で、その上に海獣と海獣に乗った男性がカップ部分の貝殻を支えている。
このような貝で作った豪華なカップは、大英博物館のロスチャイルド家コレクションでも多く見られる。以下の記事でもいくつか取り上げている。
こちらも貝殻でできたカップ。磨き上げられて素晴らしい光沢を持つ貝殻の色が美しい。その口を覆う金細工のカバーと、ワシの頭部の装飾が見事に貝に調和している。職人技が詰め込まれた作品だ。
銀細工が美しい置時計。よく見ると東洋風の意匠が混合していることがわかる。
全面にデコラティブな文様が施されており、また上部には人物像がいくつも彫られている。トップの部分をよく見ると……
なんか唐突に七福神みたいな像が2体いる。他は西洋人の像なのにここだけなんか雰囲気が違って面白かった。
下部にはサイに乗る人物も描かれており、やはりアジア風の雰囲気が漂う。インドだろうか? 当時はシノワズリ(中国趣味)などの東洋モチーフが西洋で流行していたので、この作品もなんらかの影響を受けていたのは間違いなさそうだ。
天然石をふんだんに使った、美しいモザイク家具
この展示室では、色とりどりの石を組み合わせて図柄を構成するモザイク絵画を活用した家具も多く見られる。
超細密なモザイク装飾が施された円形テーブル。中心のハチドリを囲むように、色とりどりの植物と果実が配されている。
あまりに精密すぎて遠くから見ると絵のように見えるが、近づいてみると、この通りモザイク状なのがわかる。ミクロモザイクといい、極小のガラスを使ってモザイク画を作る技法だ。
マイクロモザイクでローマ内のさまざまな遺跡を描いたもの。下部中央のコロッセウムは、1805年の修復前の姿を伝えている。
装飾パネルはフランスのルイ14世が職人たちに命じて制作させたもの。後世に、イギリス貴族のためにパネルがキャビネットに嵌め込まれ、現在の姿となった。なんと美しいのだろうか。
大理石にアメジスト、ラピスラズリなど天然石がふんだんに使われている。豪華という言葉が陳腐に聞こえるほど贅の限りが尽くされている。
鳥や果物も、すべて天然石でできている。この作品を目の前にすると、石はこんなにカラフルなものだったのか、と思わされる。
この鳥の羽毛の複雑な色合いすら、石で表現できてしまうとは。いつまでも眺めていられる。
こちらも豪華絢爛すぎるキャビネット。元はイタリア、メディチ家のアンナ・マリーア・ルイーザ・デ・メディチのために制作された。
この天然石を組み合わせて図像を作る技法はイタリアのpietre dureというもので、職人の高いスキルを見せる。流線型の草花文様は見ていて心地よい。
まるでフルーツケーキのような見た目のこの作品は、実は文鎮。多分私の人生で見た中でお洒落な文鎮ランキング堂々の第一位。
これも材料はメノウやロードナイト、蛇紋岩などの天然石。石のポテンシャルの高さを知る。果実のプリッとした瑞々しさや光沢ある皮などの表現がとてもリアルだ。
男女がいちゃいちゃしている場面を描いた絵画。遠目に見て油絵だと思ったこの作品も、実はモザイクだから驚いた。服のひだとかどうやっているの? とその技術に目を剥く。
部分拡大。なるほど、衣服のひだは絶妙に色の違う石を組み合わせているのだ。そして床に落ちた花の影まで、暗い色の石でしっかり表されていることに気づく。
薄紅色の柱のような装飾部分が印象的なキャビネット。さまざまな風景を描いたモザイク画パネルは写真を嵌め込んだかのようにも見える。まだ写真がない時代、人々は絵画で風景や物を楽しんだのだろう。
山や丘などマクロなものを石というミクロな素材で構成しているのが面白い。それぞれの石の色と質感はしっかりと調和し、ナチュラルな風景を作り出している。
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客が集中する地上階よりも上の階にあるこの展示室は普段は目立たないが、ここで紹介したようにお宝の山。V&A博物館に行ったらぜひ訪れてみてほしい。
V&A博物館 第70~73室
住所:Cromwell Rd, Knightsbridge, London SW7 2RL
入場無料
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