今回は、ロンドンのV&A美術館の中にある、仏教コーナーを紹介しようと思う。
仏教コーナーは、17-18・20室、47室と飛び地の2ヵ所にある。
これは2017年夏に「エキシビション・ロード」沿いにリニューアルオープンした新しい出入り口。ここから入ると、すぐに仏教展示室17-18・20室が現れる。
ここと奥の47室を合わせて、素晴らしい仏像、面白い仏像の数々を紹介していくよ。
画像はすべてhttp://collections.vam.ac.uk/より。
17-18・20室
イケメンの仏像
たぶんV&Aのブッダの中で一番イケメン。優勝! もはや美しい。
ガンダーラは現在のアフガニスタン東からパキスタン北西あたりにあった古代王国。
ガンダーラ美術はギリシャ、ペルシャ、インドなど様々な文化が混ざり合っているので、ブッダの顔も彫りが深くて綺麗なものが多い。
なぜそうなったかはこちら。
ダンディなイケメン。弥勒は次のブッダになることが約束された菩薩。
ゴータマ・ブッダの死んだ56億7千万年後にこの世界に現われ悟りを開くという。まだまだ修行中の身なのである。
ポタラ山(補陀落山)に座る観音像。チベットの「ポタラ宮」も同じ語源である。
静かで聡明な雰囲気の像だ。周りを囲む小さな仏像には朱色がまだ少し残っている。作られたばかりの頃は色鮮やかだったのかもしれない。仏像たちの合間を縫うように山羊や象、獅子、サルなどを含めた動植物が彫られている。
これはトルソだけど、顔があったら絶対イケメンであろう体をしている(?)。細身でしなやかな体の線が優美だ。やや少年ぽくもある。
これが発見されたのと同じ場所から、通常観音像と対になっている弥勒菩薩の像も後になって発掘されたという。
見事な浮き彫り彫刻(レリーフ)
仏教とヒンドゥー教どちらでも崇拝される癒しの神。蓮の上に乗り、右手のあたりにヒンドゥー教の象頭の神、ガネーシャを携えている。この画像だとわかりにくいけれど……。
仏教とヒンドゥー教はどちらも古代インドで生まれた。バラモン教に反発してできたのが仏教、バラモンが変化したものがヒンドゥー教だ。
なので2つの中で観念を共有しているものもあり、この作品はその片鱗を見るようでとても面白い。ちなみにブッダはヒンドゥー教にも9番目の聖人として登場する。
台座には「異なる派の仏教徒たちが一堂に会してこの像を作った」というようなことが書かれている。
輪廻から抜け出て涅槃に入る瞬間のブッダを表現したもの。実はここにもヒンドゥー教の要素が混じっている。
横たわるブッダのすぐ下、脚を組んで瞑想している人物は、スバッダというブッダの入滅直前に弟子となった人物。実はヒンドゥー教の聖典「マハーバーラタ」の登場人物でもある。
インパクト大! 黄金の仏像たち
展示室の真ん中に存在感たっぷりに立っている像。重心を右足に乗せた腰のラインがセクシー。
何かをつまんでいるような左手には、かつて蓮の花(純粋な魂の象徴)を持っていた。
チベット仏教美術は私が大好きなものの1つ。このように男女が絡みついている像はチベット仏教特有のものだ。
Mahasiddhaとは600~1100年の間にインドに住んでいたタントラの修行者たちの総称。その一人であったGhantapaがこの男性像である。
タントラでは、魂の知覚を広げるために、性行為の儀式も修行に含まれる。
つまりこのシーンは、キャッキャウフフしているわけではなく、真面目な儀式なのである。
こちらも修行に励んでいる像である。決して快楽に溺れているわけではない。
ロバの頭をした男性は慈愛、女性は智慧を表す。
タイトルのkharaとは、サンスクリット語で「ロバ」「空(くう)」の2つを意味する。
ちなみにサンヴァラとは、wiki先生によれば、9つあるジャイナ教の原理タットヴァのうちの1つである。
1行目の「サンヴァラとはカルマの制御である。」でもうなんか遠くの世界に連れて行かれそうになったので読むのをやめた。詳しく知りたい方はどうぞご自分で。
これもタントラ修行者MahasiddhaのうちのVirupaさんという人だ。
チベット仏教で崇められている人物だが、この作品は明の第3代皇帝永楽帝のために作られたもの。永楽帝は仏教徒で、チベットの宗教指導者をよくゲストとして迎えていたという。
バイラヴァとは、ヒンドゥー教の主神、シヴァ神の恐ろしい側面を象徴する別の姿であり、「絶滅」を意味する。儀式の際には、口からお神酒を注いだという。
ちなみに、このバイラヴァ(マハーカーラとも呼ばれる)は仏教に入り大黒天という名がつけられた。「大黒」の音が「大国」に通じるため、日本の大黒様はニコニコしているが、もとは恐怖の神だったのである。
「バイラヴァ」という名前で渡っていたら、日本の優しい顔の大黒様もいなかったかもしれない。
日本の仏像は……?
と、こんな金ぴかとイケメンの仏像に囲まれて、日本の仏像勢も展示されていた。
日本の仏像は……
なんだかのっぺりとした顔であった。どうも他のと比べて迫力がない。優しそうではある。
と思ったら、迫力ある不動明王もおかれていたので安心。
大日如来の別の姿で、人間の煩悩を焼き尽くす炎に包まれている。
神や仏は別の姿をいくつも持っている。
47室
ここからは奥の方の47室の作品を少しだけ紹介。
ド派手で巨大な仏殿
まるで城のような、ものすごい存在感を放っている仏殿。どこを見ても金ピカである。
脇にはブッダの弟子のサーリプッタとモッガラーナが控えている。
ブッダの顔がよく見るとマンガみたいである。
弟子(これはサーリプッタ)の方がよほど聡明そうな顔をしているのがおかしい。
木彫りの仏師像
羅漢とは尊敬されている修行者のこと。この像は説法中のものであると考えられている。
流れるような衣服の表現、骨格を感じさせる身体表現など、ギリシャ彫刻にも劣らない出来栄えだ。
顔の表情も角度によって印象がかなり変わるので、近くでじっくり見た方がいい。
ブッダの顔も多種多様
ここに展示されているブッダの顔を眺めていると、「ブッダの表現にもいろいろあるのだなあ」と感じた。もとは1人の人物であったはずなのに。
割とアジア人ぽい顔立ちのブッダ。すっきりと穏やかな顔だ。かなり写実的である。
すごい濃い顔のブッダ。西洋人やインド人のように、瞼のくぼみが深く、鼻も大きい。
こういうインド人、ロンドンでたまに見かけるわ~などと思った。
こちらは東アジアっぽい顔。
目を閉じ、大きな口を結んだこのブッダの顔は、カンボジアのアンコールワットを中心としたクメール文化に特有のものだ。
11~12世紀、タイはクメール帝国の一部であり、1238年に初めてタイの独立王朝スコータイ朝が成立した。この像はその独立前後に作られたとされる。
独立してもタイへのクメール文化の影響は大きく、こうしたブッダ像も作られたのだった。
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なかなか奥が深い仏教コーナー。V&Aに来たら一度は覗いてみることをおすすめする。
大英博物館のイケメン仏&セクシー仏の記事も以前書いた。こちらからどうぞ。
この仏教コーナー47室と隣り合わせの日本文化コーナーについてはこちら。
コメント
以前チベット仏教の死者の書について興味を覚え、幾つか本を読んだのですが、チベットの仏像を見るのは新鮮でした。仏像と言っても国によってかなりの違いがあるのですね。個人的にはインドのイケメン仏像様と、チベットの腰がくびれている黄金のセクシー仏像様が好みです(笑)
ロンドンの美術館へ行けば会えるんですね~。美術館巡りをしたいなぁ…。
美術を愛する人 さま
コメントありがとうございます。
死者の書って面白そうですね、おすすめの本とかありましたら教えてください~。
インドのイケメン仏像いいですよね!(笑)
大英博物館にも仏教コーナー(というかアジアコーナー)があってそこにもイケ仏がたくさんいるのですが、現在改修中で、この冬に再オープンしたらそれも記事にしようと思っています。
ロンドンは美術館が全部タダなので、美術好きには本当にいいと思います。
そういった美術館事情についても「美術」カテゴリの記事にあるので、よろしければ目を通してください:)