大英博物館で絶対見たい、驚異の「ライオン狩り」回廊と巨大なラマッス像

大英博物館
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大英博物館の常設展である第10室には、見どころの1つである有名な「古代アッシリアのライオン狩り」を展示する回廊がある。

「大英博物館に行ったら必ず見るべき!」と断言できるほどの素晴らしい作品なので、この記事で詳しく取り上げたい。

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古代アッシリアとは

紀元前2000年頃〜紀元前609年まで存在した、現在の北イラクを中心として繁栄した王国。史上初の世界帝国(多数の異なる文化圏や民族を含んだ国家のこと)を形成した大国であり、軍事力、文化ともに高い水準を誇った。古代メソポタミア文明の大叙事詩「ギルガメシュ叙事詩」を保管する図書館を作ったことでもよく知られている。

広い版図を持っていたアッシリアの中でも特に多くの物品が発掘されたのが、ニムルドという遺跡だ。複数のアッシリア王が宮殿を構えた地域で、旧約聖書に出てくる都市カラフと同定されているところでもある。残念ながら、このニムルド遺跡は2015年にイスラム教過激派組織イスラム国(IS)によって完全に破壊されてしまった。

1847年に大英博物館に運び込まれていたニムルド出土の品々は、今ではこの世に残る数少ないニムルド遺跡の生き残りだ。

古代アッシリアの巨大な人面有翼獣

大英博物館正面入口を入ってすぐに左に曲がり、ギフトショップがある廊下を抜けると、常設のアッシリア文化展示室(第7室)に出る。

そこで客を出迎えるのが、この巨大な人面有翼獣だ。イギリスの考古学者ヘンリー・レヤードが、150年以上前にニムルドで発見し持ち帰ったもので、ラマッスと呼ばれる守護獣の彫像である。このラマッスは全部で4体おり、「ライオン狩り」の浮き彫りがある回廊展示室(第10室)の入口と出口を守るかのようにそびえ立っている。

これらは、元はニムルドの街を建設したアッシリア王の宮殿を守っていた守護獣であり、作られたのはなんと紀元前9世紀である。

複数の動物があわさった守護獣ラマッス

ラマッスは、ひげの生えた人間の顔、鳥の翼を持ち、ライオンまたは牛の体を持つ不思議な動物だ。この地域では、人頭を持つ翼の生えた動物というモチーフ自体は一般的で、紀元前3000年頃から記録されている。

この地域で興った最初期の古代文明であるメソポタミア文明では、ラマという家を守る女神であったものが、徐々に男性の頭を持つこのハイブリッドな姿となり、アッシリアでは王宮の守護獣となった。

人々は家を守るために、ラマッスの姿を石版に書いてドアの下に埋めたという。王宮や街の守護神として設置される際には、この大英博物館所蔵のもののように、巨大なスケールで2体を対にするのが通常であった。

入口に立っているラマッス(上の画像)は脚がライオンのものになっている。

回廊を抜けた出口には、蹄を持った牛バージョンのラマッスがいる。

正面から見ると前脚が2本見えるが、横から見ると脚は4本。計5本の脚を持つ表現で有名な彫像である。正面から見ると立って静止している状態、側面から見ると歩いている状態に見える、2つの姿を持つ彫刻だ。

アッシリアの宗教と芸術を伝える回廊展示室

中はこんな感じで、浮き彫りのパネルが壁面に展示されている。

ラマッスの門をくぐると最初に見えるのは、当時の王族が崇拝していた神々の浮き彫りだ。これらもニムルドから発掘された。

大型の鳥と人間が混合した姿を持つ精霊のような存在で、王が祈りを捧げる守護神であったという。

こちらは翼を持つ人の姿で表された精霊。これらの浮き彫りは、ニムルドの王宮の玉座の間や、その他王家の部屋にあったものだ。

奥には、王が軍隊を率いて敵を攻めている場面が描写されている。王を讃える浮き彫りの1つである。

素晴らしい「王のライオン狩り」の浮き彫り

この展示室には、アッシリア最大版図を制し、またアッシリア最後の偉大な王であったアッシュールバニパルの「ライオン狩り」の様子を表した浮き彫りパネル作品も並んでいる。

この作品は、ラマッスのいたニムルドとは異なる、アッシリアの首都ニネヴェから発掘されたもの。アッシュールバニパル王の北宮殿を飾っていた浮き彫りだったという。

「ライオン狩り」紀元前645〜635年

アッシュールバニパル王は馬車に乗り、ライオンに向けて矢を放つ。馬車には家来と御者も同乗している。

複数の人間が連なっている様子を彫りの深さを変えて表す表現、王のよく鍛えられた腕の筋肉まで見事に表した描写力は素晴らしい。

馬の表現も卓越している。作者の優れた観察眼が作品を通して見える。浅い彫りなのに、この存在感。

かなりの長さがあるパネルに、逃げるライオンが大量に彫られている。ライオン狩りは当時の王族のスポーツとされており、また獰猛な獣に立ち向かう王の勇敢さと強さを表すものでもあった。

これは野外での狩りではなく、捕まえておいたライオンを闘技場に放ってから狩るもので、見世物としても楽しまれた。

王に狩られたライオンが逃げ、倒れていく様子。一頭一頭が、躍動感に満ちている。浮き彫りなのに、アニメーションのように動き出してもおかしくないと感じるほど。

この細密描写はどうだ。ライオンの筋肉や指の細部に加えて、矢が貫通した様子までしっかりとわかる。古代ギリシャの彫刻などもそうだが、これを見ると、人間の彫刻表現は紀元前にとっくに完成されていたのだろう、と思わざるを得ない。

こちらのパネルは特に迫力があって大好きな部分の1つ。王の乗る馬車にライオンが襲いかかり反撃するという、緊張感のある場面だ。

馬車に噛みつくライオンは、珍しく正面から見た顔が表されている。

一部剥落してしまっているが、こちらを睨みつけるライオンの鋭い眼光は、一度見たら忘れられない。矢や槍で刺されるのも厭わず襲いかかるこの迫力。

すごみ、とはこういうことを言うのだ。これが紀元前600年代に作られたものだなんて信じられようか。

これを制作した人物は、人類史上で超一流の芸術家である。だからこそ、王宮の壁に採用されたのだろう。

狩られたライオンが運ばれていくシーン。複数の男たちがライオンの体を抱える様子が明確に描かれていて、当時の召使いがこの大きな獣をどのように運んでいったのか、手にとるようにわかる。

この展示室はバーチャルツアーでも見られるので、ぜひ試してみてほしい。

Virtual Tour Assyrian sculptures 

こんな希代の名作を作らせ世に残すことができたアッシュールバニパル王は、さすが当時世界最大の帝国を統治した人物である。

彼の生涯とアッシリア最盛期の文化について、以前大英博物館で大規模な展示が開催されたことがある。今まで見た中でも、最も魅力的かつパワフルな展覧会の1つだった。

その展示のレポートはこちら。古代アッシリアのまだ知らない世界を、少しでも覗いてみてほしい。この記事で載せていないライオン狩りの浮き彫りも見ることができる。

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