大英博物館「時計だらけの部屋」で時計の歴史と職人技の数々を見よう

2019年6月7日大英博物館

ロンドンの大英博物館には、さまざまなテーマの展示室がある。その中でも私が気に入っているものの一つが、「時計展示室(Clocks and Watches 、第38・39室)」である。

小さい展示室ながら、時計の歴史を現存する古い時計を見ながら振り返るとともに、豪華な装飾を持つもの、さまざまな職人芸が光る作品を堪能することができる。

この記事では、この時計展示室で特に注目すべきものをピックアップして紹介していきたい。

カリヨン時計 1589年 ストラスブール

展示室入口にある長時計で、音楽が流れる仕組みになっており、1時間毎に賛美歌「主の祈り」を奏でる。今でも機能するらしい。元は教会に設置されていたという。

時計の歴史は日時計から始まった

古代から、世界中で人間は時を計ろうと試行錯誤してきた。機械式時計が生まれるはるか前に、日時計や水時計が誕生した。紀元前3000年前の古代エジプトですでに日時計は使用されていた。

イギリスで最古級のものとして、600〜900年頃にアングロサクソン人が使用していた日時計が発見されている。

特に修道院や教会では、祈りの時を把握するためにきっちりと時間を計る必要があったが、雨天や曇が多い西洋において、日時計で正確な時間を計ることは難しかった。

そうした背景から、最初の機械式時計は1200年代に誕生した。誰がいつ発明したのか詳しいことは明らかになっていない。1200年代のスケッチ、1300年代の写本には機械式時計が登場する。

卓上時計 1525年

ポーランド王ジグムント1世が所有していた時計。1400年代に作られた、フュージーというゼンマイ式の時計の装置が入っている。

この展示室では、現存するものとしては最古級の1500年代に制作された機械式時計を多く見ることができる。

機械式といっても、今のように1分1秒単位で正確な時間を計ることは難しく、かなりのズレがあった。しかし、当時は時計は高価で、とうてい誰もが持てるものではなかった。

高級時計は高い地位を表すステータスでもあった

ヨーロッパの皇帝や王族、貴族たちは、1500年代から科学、芸術に関するコレクションを始めるようになり、その中には豪華な装飾を持つ時計も含まれた。時計は時を計る重要な装置であるとともに、富裕層のステータスを象徴するものでもあったのだ。

また、ヨーロッパの時計はオットマン時代のトルコでも注目を浴び、そこでも一大市場を形成した。

時計 1650年 南ドイツ

時計工ギルドの職人が作った傑作。ケースは異なる工房で分業制で作られたという。最上部には天国を表す天体が施される。

正面の円盤はアストロラーベ(天文測量器)時計となっており、太陽、月、星の動きを示す。後ろ側にも時計があり、日の出と日の入りを告げる。台座の裏側には聖人の記念日と祝日を記したカレンダーが刻まれている。

仕掛け時計 1600年頃 ポーランド

帽子をかぶった農夫が、杖で現在時刻を指し示す。牛の目が前後に動き、女性が牛の乳を絞るという仕掛けが施された面白い時計だ。なんと液体を内部に入れることができ、実際の乳のように液体が牛から出るようになっている。

なんともリアルな仕掛けにクスッときてしまう。

船型仕掛け時計 1585年 ドイツ

ゴージャスなガレオン船の形をした大型の時計。またこの仕掛けが驚異的なのだ。

船体内部には小さなオルガンと鐘が内蔵されており、音楽を奏でる。時計下部には小さな車輪がついており、自動で動くことができる。

この時計は、宴会の時を告げる際に音楽を流した後、テーブルの上を走行、そしてフィナーレには大砲が撃たれるという一連のエンターテイメントを演出した。

残念ながら、現在はもう動かなくなってしまっており、実際の機能は見られない。

小塔時計 1600〜1620年 イギリス

この時計展示室の一つ目の部屋の真ん中に展示されている、巨大な時計。貴族の別荘で所有されていたもので、中世の教会で使われていた時計と同じメカニズムを持つ。

垂れ下がる重りによって歯車を動かし時間を示す中の構造がよく見てとれる。

1500年代初頭、時計作りはアウグスブルグ、ストラスブルグなど当時のドイツで隆盛したが、1550年代からは、さらにフランス、フランドル、オランダへと広まった。イギリスにもその波は押し寄せ、それらの地域から来た職人たちがロンドンで制作を行った。

時計のメカニズム、機能の発展

振り子時計の発明

1657年、オランダの学者クリスティアーン・ホイヘンスによって振り子時計が発明された。

1630年代に、天文学者ガリレオ・ガリレイが振り子時計の図面を発明している。しかし、実際に振り子時計の実物を作り出したのはこのホイヘンスだった。

この発明は、時計業界の革命となった。それまでズレがあった時計の誤差を、1日1分以内にまで縮め、より正確に時間を計れるようになったのだ。

ナイト・クロック 1685年 イギリス

寄木細工で美しい花々が施された芸術的な一品。

振り子時計の一種だが、中にオイルランプが内蔵され、夜には盤面の数字が光るというすぐれものだ。電気が発明される前には大変便利だっただろうが、火事の危険性も大いにあった。

ローリングボールクロック

ローリングボールクロック 1820年 イギリス

これは実際で展示室で動いているところを見られる時計。時間を計る目的としては正確とは言えないようだが、その物珍しさ、エンターテイメント性からこのデザインのものが多く作られたという。

金属の玉が下部の金属板の溝に沿って転がっていく。板を1回転がり切るのに30秒。玉が到達した側がシーソーのように持ち上がり、反対方向へとまた玉が転がっていくという仕組みで、ずっと動き続ける。

イギリスでの時計作りの発展

イギリスの時計産業は、振り子時計の発明からすぐに大きく発展した。商人や地主も家具の一つとして家に時計を持てるようになったが、やはり特別な製品は高価格で、その顧客は上流階級に限られた。

卓上時計 1765年 イギリス

音楽とともに、時計盤上部の人形たちが動く仕掛けになっている時計。展示室では木材を切る人形たちの腕が動いているところが実際に見られる。

ケースに描かれたカラフルな文様や花々も大変美しく、目を惹く作品。

時計 1690年代 イギリス

ロンドン一有名だった時計職人の手による作品の中でも、おそらく最高傑作の一つと言われているもの。時の王ウィリアム3世の寝室に置かれるために制作された。金と銀で絢爛な装飾が全体に施されている。

1回ねじを回せば、1年ずっと稼働し続けたという。1時間ごとに音を鳴らし時刻を告げる。

このトップに立つ女神は、イギリスを擬人化したブリタニア。手にはイングランドとスコットランドの十字架が組み合わさったモチーフを持つ盾を持っている。

ウィリアム3世はイングランドの王だったが、その治世下にスコットランドの国王にも就任している。この盾はそうした政治的背景も示しているものだ。彼のせいでスコットランド人は徐々にイングランドへの反発を高めていき、歴史に刻まれる大規模な反乱までつながることとなる。

より軽く携帯性の高い懐中時計の誕生

時計の発展の一形態で外せないのが腕時計や懐中時計(watch)。最初の腕時計は1490〜1510年の間にイタリアまたは南ドイツで発明したとされる。機械式時計の誕生とわずか300年ほどしか年月を隔てず生まれたのだ。

こちらが最初期の、1500年代後半に作られたものだ。当時、人々は腕ではなく首周りに時計をつけていた。

こうした小さな時計は、一人の職人が作るわけではなかった。スプリング、めっき、刻印などを手がける職人らが時計職人と協力して作っていた。

中には独創的なデザインを施されたものもある。これらは1600年代の時計で、十字架、頭蓋骨、犬のモチーフに象られた。ドクロは中世、近世のヨーロッパで「命の儚さを忘れるな」というモットーとして、芸術作品に頻繁に登場した。

カタツムリのデザインの懐中時計 1650年代 ドイツ

ロッククリスタル(透明水晶)で作られた、なんともおしゃれなカタツムリ型のケース(蓋)を持つ時計。今でも人気になりそう。

こちらは1800年代の懐中時計。右上のものが他の時計と比べて極小なのがわかるだろう。指先くらいの大きさしかない。ここまで来ると、実用性よりもデザインや希少性のために持つものになるだろう。

腕時計は女性がつけるものだと考えられていたが、第二次世界大戦中に男性からも人気を集めた。

これらは1900年代前半の腕時計。右端の78番は、ロレックス製の「sproting prince」という製品で、スポーツマンのために作られたという。15日間のテストでわずか2.83秒前後のズレしかないという、当時の時計では最高の正確性であった。

近代、現代の時計

従来、時計は小さな工房で手間をかけて作られ、一部の人しか手に入れられないもの、または公共のものであるのが常だった。しかし、1850年代から状況は一変した。機械工業が導入され、時計の大量生産が可能になったのだ。

これにより、以前は時計を手に入れられなかった層の人も、時計を持てるようになった。

カッコウ時計 1870年 ドイツ

シュヴァルツヴァルト(黒い森)というエリアは、木製のカッコウ時計(鳩時計)の製造地として名高い。1850年までに時計製造所ができ、時計を大量に生産してきた。

この時計もその一つで、中は振り子式となっている。上にはカッコウが、下にはそれを狙う猟師と猟犬が彫られている。

15分毎に鳥の鳴き声が時を告げる。日本ではこの手のタイプの時計は鳩時計という名称が主流だが、カッコウは日本で別名を閑古鳥といい、縁起が悪いとされたため鳩として広まったという説がある。

折りたたみ時計(左)1935年 スイス
400日時計(右)1928年 ドイツ

財布時計は、旅行者のために1930年代に開発された。平たく折りたたんでポケットに収納することができ、また必要なときには卓上時計として写真のように立てることもできた。一石二鳥の便利な時計である。当時、イギリスまたはスイスで作られており、一つ1〜2ポンドで販売されていた。

400日時計は、1回巻いただけで400日稼働し続ける時計で、今でも人気を集めている。

電波時計(左)2006年 日本
アトモス時計(右)1955年 スイス

電波時計は現代でおなじみ、私達が毎日使っている時計である。標準電波を内蔵のアンテナで受信して、自動で正確な時刻を刻んでくれる。人間が500年以上もの間挑んできた「正確な時間を計る」という課題に対する回答の、現時点での最高到達点と言えよう。

アトモスとは、スイスの高級時計メーカー、ジャガー・ルクルトの製品ブランドだ。何もせずとも半永久的に稼働し続ける時計で、内蔵されたガス温度計の温度変化により動いている。1℃の変化で約120時間働き続けるという。


この「時計展示室」では、王侯貴族しか持てなかった極上の一級品から、最初期の腕時計、現代の正確に時間を刻む時計まで、まさしく「時間の歴史」を彷徨うことができる。

大英博物館に行ったらぜひ立ち寄ることをおすすめしたい。


大英博物館

住所:Great Russell St, Bloomsbury, London WC1B 3DG

入場無料

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2019年6月7日大英博物館

Posted by Sara