日本人なら見ておきたい、大英博物館の日本セクション(古代・現代)

大英博物館
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「大英博物館で日本の宗教はどう紹介されているのか」の記事に続いて、大英博物館の日本セクションの見どころを紹介するよ。

今回は日本の芸術と古代文化・現代文化について。日本の漫画も置いてあったよ。

※展示されている解説を和訳+自己リサーチして紹介。

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芸術

絵巻「伊勢物語」1600年代

原作は900年代後半に書かれた作者不詳の「伊勢物語」は、友情や恋愛、社交生活を中心に若い男(在原業平)の生涯を記したものだ。

この場面は、男が地元である京都を出て自分の居場所を求めるために、東に旅に出る場面。「自分探しの旅」の大昔バージョンである。

この場面は多くの画家が描いてきたが、季節は秋で描かれることが多かった。だがこの絵巻では冬の場面として描かれている。

一ノ谷合戦図屏風 1600年代半ば

1184年に起こった源平合戦の1つである「一ノ谷の戦い」を描いたもの。

源頼朝率いる騎馬隊が急な坂を駆け下り、まさか絶壁ともいえる坂を下っては来ないだろうと思っていた平氏を驚かせたのだ。結果は源氏が勝ち平家が負けた。

負けた源氏は左側、船で逃げようとしている。

浮世絵「猿の三番叟(さんばんそう)」河鍋暁斎 1879年

巨匠河鍋暁斎の作品。三番叟とは伝統芸能の1つで、新年に踊っていた舞の一種らしい。
伝統芸能には詳しくないのでさっぱりだけど、最初この絵を見た時は猿とウサギが戦っているのかと思った。

よく見るとタヌキも後ろのほうにいるのね。余談だけどタヌキって西洋にはいないらしい。英語では「badger」という。正確にはアナグマをさすんだけど、日本のタヌキを指す時にも使われる単語。「tanuki racoon」と呼ばれるときもある。

躍動感があって動物たち皆楽しそう。左上のタヌキの親子が肩車しているのが可愛い。

動く動物たち「自在置物」1750~1850年

大好きな自在置物が展示されていたことでテンションがここでいきなりあがった。

自在置物とは、金属で動物をかたどった工芸品で、解剖学的に正確なだけではなく、関節などふしぶしが動く、驚異的なテクノロジー工芸品なのだ。

この写真に写っているのは、鯉、セミ、カマキリ、蛇。

実際にイセエビの自在置物を京都で触らせてもらったことがあるが、本物かのように尻尾がウネウネ動く動く。気味悪いくらいにリアル(褒め言葉)だった。

これはカマキリ。親指と人差し指を広げたくらいのごく小さい置物。

蛇と孔雀。

イセエビの件で、この蛇がどれだけリアルな動きをするのかだいたい想像がついてしまう。解説を読むと、口まで開けて歯を見せるらしい。

この孔雀の羽の美しさと精巧さを見よ。この尾羽も体ももちろん動く。
動くところが見たい……。触れなくてもいいから、動いているところを動画にでもして展示してくれたらいいのにな。そしたらもっと多くの人が「おおっ!!」となると思う。

江戸時代に生まれた自在置物は、もう作れる人が本当にいなくなってきているんだそうだ。これもロストテクノロジーになってしまうのかな……。

根付

根付は、袋や小さい鞄など紐で吊るして持ち運ぶ荷物につけていた留め具のこと。人間、動物、妖怪などさまざまなモチーフが彫られて、ミニチュア彫刻として世界中で高く評価されている。根付コレクターも海外に多数いるとか。

日本ではあまり知られていないよね。日本だと京都に「静宗根付館」という根付専門の美術館がある。渡英前に行きたい行きたいと思っていて行けなかった場所。今度帰国した時にいければいいなあ……。

根付は今でも「現代根付」として斬新なものを作っている若いアーティストがいたりする、これからもとっても面白い分野。

真ん中の根付は、雄鶏を抱くオランダ人(1780年)らしい。だから鼻が大きいのか……。右は熊。胸に白い帯があるからツキノワグマかな。

これは「木鼻を彫る男」。木鼻というのは、木造建築物の、横に貫く柱の端っこについている彫刻のこと。

参考

神社やお寺の建物を見るとついていることが多い。動物にも獅子、麒麟、像、バクなどいろいろ縁起のいいものがあるので、見比べてみると楽しい。

この根付の木鼻は、たぶんバク。夢を食べるというあのバクね。日本の古いバクの絵は、長い鼻を持っていて象とライオンが合わさったような見た目をしている。

「ぶんぶく茶釜」らしい。解説には盲目のあんま師が茶釜に化けたタヌキに化かされるみたいなことが書いてあるけど、そんなエピソードだったかな……?

和尚さんの茶釜が実はタヌキが化けたもので、小僧が火にかけたら「熱い」って声を出して驚かす、みたいな話だったと思うんだけど。もしかしたら複数バージョンがある話なのかもしれない。

左は人魚、右は壺公仙人。なんか人魚の顔がややニヤけていて怪しい……。

壺公仙人は3世紀の中国の山に住んでいたと言われる仙人。

ネットで調べてみると、「後漢の時代に、市場で薬を売る姓名不詳の老人がいた。彼は店先に1個の壺をぶら下げておき、日が暮れるとともにその壺の中に入り、そこを住まいとしていた」というような説明が出てきた。

えええええ……!? 壺に住んでいるのか……。そういわれるとこの壺に老人がハマったような根付も納得がいく。就寝態勢だったのだね。

いろいろな動物の根付。二頭の馬とタコがお気に入り。ミニチュアってだけでなんか可愛い。しかし木や象牙をこんな素晴らしいものに加工する技術はすごいなあ。

外国人が作った根付

なんと、外国人が作った根付も展示されていた。割と最近の作品。オーストラリア在住のイギリス人アーティストだそう。

枯れかけた蓮の花の上に佇むカエル。タイトルのsentinelには、見張りや番人、ガードといった意味がある。
野生生物の注意深い性質と、カエルが環境汚染を知らせる目安にもなるという意味をこめてつけたタイトルだという。

着物 京友禅 流水紋訪問着 森口華弘 1970年代

京友禅の着物も展示されている。白地にカラフルな流水紋が美しい。ばっさりと大胆な構図。

まるで虹のようだ。白地の部分にもうっすらと無色の流水紋が施されている。
羽織るだけで気高い気分になりそう……。

アイヌの着物「ルウンペ」1800〜1900年

アイヌの伝統衣装も展示されていたことに驚いた。何気に何でもある、この日本展示室。

こう見るとアイヌはとても独特な文様文化を持っていたのだな、と思う。幾何学的でパキッとした色遣いは、今でも全然通じるかっこよさ。もともとは魔除けとしてこのデザインが発達したらしい。

古代文化

埴輪などの焼き物

日本の古代文化として、埴輪や昔の壺なども説明されている。並べて展示されていた漫画は手塚治虫の「3つ目が通る」。

ここに縄文時代の土偶が出てくるのだが、その描写がとても正確だということで比較のために置かれたらしい。

銅鐸(弥生時代)

大きな鐘のような形をした銅鐸(どうたく)は、西日本から多数(400以上)出土しているのに、使い道がわかっていないという謎。日本〇大ミステリーにいれてもいいんじゃないかと思う。

何らかの儀式に使われていたのだろう、と推定はされている。だいたい謎のものは儀式に使われていたんだろう、と考えられる傾向がある気がする。笑

農地の端に埋められていたりするので、農業に関する祭事に使われていたのではとのこと。なるほど。

鐘の形だけど実際に鳴らしたりはしなかったのだろうか。地味に何年もこの銅鐸が気になり続けている。

石剣と銅鉾

右が石剣で、金属の剣のコピーとして作られたもの。実際の戦闘のほか、儀式にも使われた。韓国・朝鮮からも似たような剣が見つかっているというから、中国から伝来したのかも。

左は銅鉾で、戦闘用にしては幅が広すぎるということから、儀式用、権力の象徴として使われたのではないかと見られている。福岡からの出土。

1984~85年に、島根の荒神谷遺跡から、銅鐸と銅鉾が一緒に出土して、学者を驚かせた。なぜなら、この2つは違う文化地域圏に属すと思われていたからだ。

銅鉾は通常北九州や本州の西側、銅鐸は畿内地域か岡山県で使われていたので、一緒に出土したということは、それぞれの地域から来た人々が自分たちの文化を合わせて一緒にしたのではないかと言われている。

古代出雲文化の詳細を伝える貴重な遺跡となっている。

ちなみに荒神谷遺跡からは銅剣も国内最多数が出土したらしい。私が思うに神の国出雲はとても寛大かつ大胆で、様々な地域の人が様々な道具を持ってきたから、「とりあえず全部一緒に埋めとこうぜ」的なアレがあったのではないか。

縄文土器からインスピレーションを得た現代アート

羽根の葉の器 細野仁美 2013年

この日本展示室には伝統的なものに交じってちょこちょこ現代アートが展示されている。ここが日本にはない柔軟さで私の好きなところだ。

この作品は、縄文土器(写真上)をモデルにして作ったもの。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートでアートを学んだ日本人アーティストが、古代文化を現代美術に昇華した作品だ。

繊細に彫られた羽根(葉?)が優美で目を惹きつける。陶器なのに柔らかそうに見える。

現代文化

続いて現代文化のセクションを紹介するよ。ここを見ると、「あの埴輪の時代から随分変わったなあ」と感慨深い。

芸術

色絵象嵌糸瓜飾金物 正阿弥勝義 1899年

これは花瓶ですってよ。ヘチマと鳥や蛇などの動物を組み合わせた巨大な花瓶。

一番上の葉は取り外せるようになっていて、そこに本物の花を挿せるという仕掛け。素晴らしい。リアルな質感も見事だけど、そのアイデア自体が美。

(右)黎明 三代徳田八十吉 1992年

「わざの美」として紹介されていた、徳田八十吉の作品。九谷焼の伝統的な配色を使った、モダンなお皿。

とにかくその「塗り」がの人間離れしたセンス。人間国宝なのも頷ける。色をグラデーションで塗ったシンプルと言えばシンプルな造りなのに、絵画みたいだ。

こういう日本の「モダン伝統芸能」は、もっともっと進化するだろうと思っている。

木版画「雪の白ひげ」川瀬巴水 1920年

大好きな川瀬巴水の作品が展示されているのを見つけた。「新版画」を確立した第一人者の一人。「昭和の歌川広重」と呼ばれているけど、まさにそうだと思う。伝統的だけど新しい。

この作品は冬の墨田川を描いたもの。1800年代初期の木版画技法を使っているのに、まるで現代のイラストや漫画のようにも見える不思議な作品を多数生み出した人。

木版画「髪すき」橋口五葉 1920年

喜多川歌麿「婦人相学十躰 髪すき」(写真下)からインスピレーションを受けて作られた作品。

モチーフは同じでも、歌麿のものよりさらにモダンさが増してやはり現代のイラスト的な雰囲気がある。髪の一本一本まで描かれているところに、女性ならではの髪への執着を感じたりもする。

漫画

「鉄腕アトム」手塚治虫

展示物は定期的に変わるのだが、前に「聖☆おにいさん」が置かれていたことがある。
皆もご存じ、ブッダとイエスが立川で一緒に住んでいるというギャグマンガなのだが、「キリスト教国的に大丈夫なのか……?」と思ったものだが、以前大英博物館内の他の展示室で「日本の漫画展」をやっていた時も「聖☆おにいさん」を展示していたので、大英博物館には「日本のマンガ好きかつ聖☆おにいさん大好きな学芸員」がいると見た。

ちなみに「聖☆おにいさん」が展示されていた時は、ブッダがイエスの髪を切ってあげるシーンが見開きで置いてあったのだが、ご丁寧に「ブッダがイエスの散髪をしている場面」とか説明が書いてあった。

私も大好きな漫画なのでうれしい。イギリスにいると紙では買えないけど、新刊が出ると電子書籍で即買いしている。

次の記事が大英博物館・日本展示室の紹介記事のラスト。一番人気のサムライの甲冑などを紹介するよ。

大英博物館の日本展示室で一番人気はサムライの甲冑

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