以前、オックスフォードにあるイギリス最古のミュージアムであるアシュモレアン博物館に行った際、近くにあるオックスフォード大学自然史博物館も見学してきた。
この記事では、入場無料でそうそうたる生物コレクションが見られる素晴らしい常設展について画像と共にお伝えしたい。
聖堂のような見た目の外観を持つこの博物館には、あらゆる生物の標本や鉱物など自然史に関連するもの700万点が収蔵されている。イギリスの名門大学オックスフォード大学が所有する施設である。
2020年に創立160周年を迎え、春から内装がリニューアルされる予定だったというが、新型コロナウイルスの影響で進捗は一時停止しているようだ。
ロンドン自然史博物館に比べると規模はやや小さいものの、見どころは多くある。
展示室入口には、ヒグマの剥製がお出迎え。「触ってください」と書いてあり、訪れた子どもたちが次々とその手触りを楽しんでいた。一頭丸ごと触っていいなんて、すごい。
身近な動物から珍しい生き物まで
館内には、古代から現代まで、身近な動物からあまり知られていない生き物まで、さまざまな剥製、標本が展示されている。中でも目に止まった動物たちを紹介しよう。
鳥類
イギリスでよく見かける鳩は2種類いる。このカワラバトは日本でもよく見る。
こちらがもう1種類の鳩。全体的にマットな灰色で、カワラバトよりでっぷりしていて、サイズも大きめ。なんとなくふてぶてしさがある。モリバトという名前だが、普通に住宅街や道路でも見かける。
アフリカに生息する、小動物や蛇を食べる鳥。すらっと伸びたシルエットがまるでモデルのような、格好いい種だ。この長い脚で蛇を蹴り殺して食べることで知られる。地上を歩くことが多いが、空も飛べる。
英語では「secretary bird (書記官の鳥)」と呼ばれ、頭の飾り羽が書記官の羽根ペンに似ているのが由来だという。
ハリー・ポッターに出てくるヘドヴィグを思わせる、シロフクロウの堂々とした剥製。ライトアップされていて神秘的な雰囲気が出ている。このふわふわの羽毛で、マイナス40℃まで耐えることができるという。
いまやすっかり知られるようになった、アフリカに生息するハシビロコウ。じっと同じポーズで微動だにせず立ち続けることで有名な「動かない鳥」である。主に魚を食べるが、蛙や亀、小さなワニまで食べることもあるという。生態系の中でもかなり上位に位置する鳥ではなかろうか。
英語では「whale-headed stork(クジラの頭を持つコウノトリ)」とも呼ばれる。たしかに、この大きなくちばしを持つ頭部はクジラの頭にも似ているかもしれない。
自然ドキュメンタリーなどでは見たことがあったが、実物のあまりの大きさに撮ってしまったアホウドリ。翼を広げたら2mにもなるというが、どっしりとしているので「これ、飛べるの?」と思ってしまうほど。
猫より遥かに大きく、戦ったら私は簡単に負けると思う。これが翼を広げて向かってきたらかなり怖い。
400年前に絶滅したとされるニュージランドの大型の鳥。飛ばない鳥で、また翼のない唯一の鳥として知られる(ダチョウなどその他の飛ばない鳥は、翼はある)。確かに、この骨格にも腕に当たる部分の骨が見えない。
狩りと環境の変化によって絶滅したとされる。
有名な「オックスフォードのドードー」
マダガスカル沖のモーリシャス島に生息していた絶滅種、飛べない鳥のドードーもいた。
ヨーロッパ人がモーリシャス島でドードーを見つけたのが1598年。捕まえるのが簡単で美味だったこの鳥は次々と捕えられ、わずか100年も経たないうちに絶滅した。(信用できる証言における)最後の目撃は1662年とされる。
ドードーの標本は3つ存在するとされ、そのうちの1つがこのオックスフォード大学に持ち込まれた。しかし年月の中で完全な剥製は失われ、現在ではそのうち頭と頭部の羽、脚が残るのみである。
こちらが骨格の再現。ドードーは体高1m、重さは20kgほどだったという。
オックスフォード大学が所有するドードーの頭は、現存のもので唯一軟組織(骨以外の柔らかい組織)が残る貴重なもので、「オックスフォードのドードー」として知られる。
このオックスフォードのドードーは、ルイス・キャロルによって「不思議の国のアリス」に登場する動物となり、現在まで語り継がれている(ドードーはキャロル自身を表しているという)。
爬虫類・両生類
オーストラリア、パプアニューギニアに生息するエリマキトカゲ。干物のような状態で展示されていた。身に危険が迫った時は、このエリを使って威嚇する。
こちらは本物の剥製ではなく、複製。コミカルな顔をした蛙で、つぶらな瞳が可愛い。クランウェルツノガエルという南米に生息する蛙だという。平べったい体も愛らしい。
両生類のような魚
古代デボン紀に登場し、現在まで残っている「生きている化石」ハイギョは、普通の魚のようにエラを持つが、成長するに従い肺呼吸に切り替わるという珍しい魚である。水中に住むが、呼吸のために水面に上がる必要があるという、水生爬虫類のような生活をしている。
これから脚に進化するように見える(または退化したように見える)4本のヒレも、進化の歴史を思わせるようで面白い。
哺乳類
水上に木の巣を作ることで知られるビーバー。前脚は指が発達して物を掴むことができるが、後脚は水かきがついて泳ぐのに有利になっている。イギリスでは、毛皮のために捕えられ400年前に絶滅されたとされるが、近年野生に返す活動が行われているという。
山岳地帯に棲むオオヤマネコ。小さい虎のような雰囲気だ。この毛の模様だったら、乾燥した岩が広がる風景にも馴染みやすく、良いカモフラージュになりそうだ。
ガラスのせいでちょっとぼやけているが、個人的に好きな動物なので撮った。パタゴニアに生息する、うさぎとネズミの中間のような、顔はカンガルーも混ざっているような、不思議な生き物である。生物学的にはネズミの仲間だ。
体長70cmとサイズは結構大きく、敵に追われると最大時速80kmで走れるという。また、一生を夫婦で連れ添い、常に共に移動するそうだ。
日本固有の種も紹介されていた
日本の水族館ではよく見られるタカアシガニは実は日本の固有種で、英語では「Japanese spider crab」と呼ばれる。スパイダーの名の通り、言われてみれば確かにクモのような見た目だ。水族館で見た時は、動きも相まってなんだかロボットのようだと思った記憶がある。
日本国外、特にヨーロッパの人々にとっては激レアのこの生き物を、多くの人が立ち止まってしげしげと眺めていた。
骨格標本がずらりと並ぶスペースは圧巻
展示の中でも特に目を引いたのが骨格標本スペース。さまざまな動物の骨格を見ていると、多くの発見がある。
まるで恐竜のようにそびえたつこの骨は、キリン。
蹄の部分。よくまあこんなつま先立ちみたいな状態でこの長い体を支えられるものだ。
巨大な象の骨格。鼻の部分には骨がないので、違う生き物のよう。
古生物・恐竜の標本も充実
もちろん、皆大好き古生物や恐竜のコーナーもばっちりある。
古生代カンブリア紀の海に生息していたとされる不思議生物。ムカデのようだが、脚で立って歩いていたと考えられている。全長は最大数センチと小さい。これは拡大した復元なので、ちょっと不気味であった。
ハルキゲニア(Hallucigenia)は、ラテン語の「hallucinatio (夢想)」をもじった名前で、英語の「hallucination(幻覚)」にも通ずる。現存するどの動物にも似ていない不可思議な姿からつけられたとされる。
カンブリア紀のモロッコの海に生息していた三葉虫。2匹が重なったようになっている化石。カブトガニにちょっと似ているような、似ていないような。それにしても、随分脚がしっかり細く残されていたものだ。
古代の象の一種であるデイノテリウムは、顎から下に向かって生える奇妙な牙を持っている。これで土を掘って根を掘り出したとか、木の枝を引っ張っていたとか、牙の機能については諸説ある。
これらの化石が、ギリシャ神話に出てくる巨人族伝説の正体であるかもしれないという。
7000万〜6600万年前に生きていたとされる草食恐竜で、これはアメリカで発掘された化石の複製。
最大7トンにもなるという種で、群れで生活していた可能性が高い。化石は同じ場所で複数見つかることが多く、個体によってはおそらくティラノサウルス・レックスにつけられたと思われる傷跡が残っていたという。
そしてこちらが、天敵のティラノサウルス・レックス。うーん、やはり王者の風格。このオスのティラノサウルスは、化石を発見したアマチュア発掘家の名前をそのままもらい、スタン(Stan)と名付けられた。
8トンにもなったという巨体は、後ろから見ても大迫力。世界で2番目に完全体に近い化石であるという。
オックスフォードを訪れた際は、ぜひ立ち寄りたい博物館。大人も子どもも楽しめること間違いなしだ。
また、この自然史博物館内にはピットリバーズ博物館という小さなミュージアムが併設されている。こちらは世界中の文化を伝える品物をコレクションしている博物館なのだが、それがなんともぶっ飛んだ、クラクラするようなある種異様な空間だったので、ぜひ次の記事で紹介したい。
住所:Parks Rd, Oxford OX1 3PW
常設展は入場無料
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