コロナ禍で再開したロンドンの美術館はどう変わった?実際に行ってきた

アート情報・考察
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コロナウイルスの影響で3月下旬からイギリス全土がロックダウンし、ようやく少し前から緩和され始めた。

ロンドンでは、ミュージアムが約4カ月間の閉鎖を経て、ぽつぽつと再オープンし始めた。

日頃からミュージアムに行くのが生活の一部であった私にとっては、もうそろそろ美術品に触れないと酸素切れになってしまいそうな状態だったので、ロンドン内でもいち早くオープンしたウォレスコレクションとロンドン・ナショナル・ギャラリーに足を運んできた。

交通機関を使う回数をなるべく少なくしたいので、1日にまとめて、平日の通勤時間帯を避けた時間に。

いつもなら多くの観光客で溢れているナショナル・ギャラリー前のトラファルガー広場も、今はこんな感じ。

再オープンするにあたって、コロナウイルス対策として美術館側もさまざまな新しいルールを導入せざるを得なくなった。この記事では、今回行った二施設で以前と変わったことについて紹介していく。

導入しているルールや対策は、施設ごとに異なる。ここで取り上げたものがすべての施設に該当するとは限らないので、あくまで参考としてみてほしい。

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入場は完全予約制

まず、入場はすべて事前予約制となった。有料の特別展も、無料の常設展も(イギリスのミュージアムは常設展が無料のところが多い)、現地ではチケットを買うことはできず、予約がなければ入れない。無料展示の場合は支払いはないけれど、行く時間帯を選んで、事前にウェブサイトから申し込む必要がある。

入場時間帯は事前予約制だが、退場の規定はなく、閉館までに出ればいい。

予約した時間に行くと、入口に列ができていた。こちらはウォレスコレクション。係の人が建物内の客の動向を見て、十分に空間があると判断したら入れてくれるようだ。大幅にはずれないが、例えば12時からの入場枠を予約したとしてぴったりに入れるとは限らない。5~10分遅れるかもしれない(し、早まるかもしれない)。

入口には、自由に使える殺菌消毒用のボトルと、館内での過ごし方のガイドラインが設置されている。

ガイドラインには、コロナウイルス様の症状があったら入場しないこと、他人との間隔を2m開けること、他人とハグや握手を避けること、くしゃみや咳をする時はティッシュや腕などで覆うこと、などが書かれている。

マスクに関しては、「マスクをしてもらえるならぜひしてほしいけど、強制ではありません」というスタンスのようだ。※2020年9月以降、ミュージアム内もマスク着用が必須となった。

こちらは、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの入場待機列。ウォレスコレクションに比べて規模が大きく人気も高い場所だからか、延々と続く列に「これで予約した時間にちゃんと入れるのか……?」と不安になったが、数分遅れたくらいで入れた。

営業時間が短くなった

さらに、営業時間を短くして再開する施設も多いようだ。ミュージアムはだいたいどこも9/10時~17/18時の営業だが、現在は、ウォレスコレクションは15時、ナショナル・ギャラリーは16時に閉館するようになっていた。

ただ、ナショナル・ギャラリーは金曜に夜間開館を行っていて21時まで空いているので、夕方以降に行けるチャンスがゼロというわけではない。

周れるルートが決められている

これも以前とは大幅に違うところ。入場者は指定のルートを周るようになっていた。

こちらはウォレスコレクション館内。床にはルートを示す矢印マークが貼られている。

以前は入れた部屋も、今回は入れなくなっている、または迂回して周るようになっているところが結構あった。

立ち入り禁止のロープ越しに覗いた、前は自由に入れた甲冑展示室。目玉の展示の一つだからルート上にあると思っていたが、今回は入れなくなっていた。このように、外からでも一目見られるようにしてくれているのはせめてもの気遣いだろうか。

ナショナル・ギャラリーの方は、入場者はA、B、Cの3つのルートから選んで周るようになっている。それぞれ見られる作品の年代や作家が大きく異なる。それぞれ25~30分と目安時間が書いてある(でも正直、かなり人によると思う)。

この3つは交わることはないが、ひとつ見終わったら違うルートを選んで周ることもできる(ただ、そもそも広い美術館なので、3つ全部周ったらかなり疲れると思う)。

こちらも矢印マークに誘導されてルートをたどっていく。

気をつけないといけないこととしては、ルートが固定されているので、トイレに行けるタイミングが決まっている(ルートを周る前後しか行けない)のと、無料展示でも施設によっては一度出口を出てしまうと再入場はできないということだ。ウォレスコレクションは、出口前のミュージアムショップに入る前に「ここを通るともう展示には戻れませんがいいですか」と確認された。

展示室ごとの収容人数が決まっている施設も

ウォレスコレクションでは、一つ一つの部屋が狭いためか、各部屋ごとに人数制限が課されていた。部屋によって1~6人くらい。

なので、部屋に入る前に「何人入ってるかな……?」チェックしたり、自分がいる部屋の入口で待っている人がいると「あっ待ってる……」と思ってしまい、前ほど自由には楽しみづらいのがちょっと難……かな(しょうがないんだけどね)。

監視員がいる部屋では、監視員から「入っちゃダメ」「入ってOK」のサインが出される。

ただ、人数制限があるということは、広々とした空間を味わえるということで、部屋中のびのびと見回れるというメリットもある。

と思ったら、いきなり22人とキャパが増大している部屋を見つけてびっくりした。

ウォレスコレクションで一番広い大部屋。なるほど、この広さなら納得。

休憩用のソファーもこの通り、「間隔を開けて座ってね」のマークが。

上の画像で、奥の方に列ができているのが見えるが、これは次の部屋が小さいので小人数しか入れず、待たなければならなくなっているのだ。こういう列がルート上ではしばしば見られた。

ナショナル・ギャラリーの方は、どの展示室も大きいためか、特に各部屋の収容人数制限はなし。

それでも入場者数自体を絞っているから、どの展示室もかなりゆったりとした人の入り。通常はかなり混んでいるから、今回はどの作品も見やすくて嬉しかった。

時間に余裕を持った予定を立てた方がいい

ここまで見てきておわかりのとおり、時間予約制といっても入場時間も少しずれることがあるし、ルート上で待たされる場合もあるので、時間には余裕をもって出かけた方が良い。

展示鑑賞後に予定を入れる場合は、多少遅れても大丈夫なようにスケジュールを組んだ方が良いと思う。

また、すでに書いたが、営業時間が短縮されているので、入場時間を予約する際はちゃんと見たいものが閉館までに見られる時間があるかどうか、閉館時間を確認してから予約しよう。

ガイドがない代わりにスマホアプリとの提携が充実

この状況下のせいで、ミュージアムでは無料のガイドツアーなどがなくなっている。その代わりに、ITがその代替サービスを提供しているのだ。

今回、「IT化が進んでいる……!」と感動したのが、「Smartify」というアートアプリ。

作品をスキャンして解説が見られるスマートフォンアプリ「Smartify」

Smartifyは、世界の主要なミュージアムと提携しているスマートフォン用アプリで、巨大なデジタル美術作品カタログのようなものだが、館内で作品をスキャンして情報を見ることもできるという。

ロンドン・ナショナル・ギャラリー内の掲示で気づき、館内Wi-Fiを使ってダウンロード、さっそく使ってみた(ウォレスコレクションでも使えたらしいが、知らなかった)。

アプリを開き、下部メニューの「scan」機能を使ってカメラを作品に向けると、その場で作品をスキャン、分析し、データベースから解説を拾ってくれるのだ。

作品解説ページはこんな感じ。キャプションと詳しい解説が見られる。

すごいのが、ナショナル・ギャラリーでは、有名作品や目玉作品だけでなく、知名度がないものでも小さなものでも、ほぼすべての作品に対応している(2500点以上登録されているらしい)こと。展示室内のキャプションにはタイトルと作者名、年代しか書いていない作品でも、このアプリでスキャンするとより詳細な解説を得られる。素晴らしい。

多言語対応だが、残念ながら日本語はない。中国語はあるから、今後日本語も出てきてくれたらいいのだが……。

ロンドン内でSmartifyと提携しているミュージアムは、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、ウォレスコレクション、テート・ブリテン、ギルドホール・アートギャラリー、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ、ワデスドンマナーなど。

今後、他のミュージアムも再オープンする予定が続々と出ているが、しばらく感染対策としてこうした変化は残り続けるだろう。もしかしたら、恒久的に展示鑑賞の仕方を変えてしまう可能性もあるかもしれない。施設で働く人も大変だろう。

この状況で、美術館の在り方や存在意義について考えた人も多くいたのではないだろうか。私は、4カ月ぶりに美術館を訪れて、「やっぱり、どんなに精巧でも、デジタルの画像と本物では違う」としみじみ実感した。だから、やっぱり実物が見られる場所に足を運んで、実物に触れたい。そこから発されるものを感じて、取り込んで、咀嚼したい。

「本物を見る」ことが人生でいかに大事であるかという話
「本物を見る」ことの大切さを、経験を重ねるほど実感する。 本物、とは「実物」「オリジナル」などの意味だと思ってもらえばいい。 実物と複製品は違う この世のすべてのものに当てはまるわけではないかもしれないが、目の前にある実体、実物か...

アートなしでは生きていけない人間としては、この変化に従いつつ見守りつつ、最大限楽しみを享受していきたいと思う。

これまでの、ウォレスコレクションの展示レポはこちらから。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの展示レポはこちらから。

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