イギリスでは多くの美術館・博物館の常設展に無料で入ることができる。美術館巡りが好きな人には聖地と言ってもいい場所だ。
例えば、ロンドンでは大英博物館、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、V&A博物館、自然史博物館、テート・ブリテン/モダンなど、有名巨大博物館は軒並み無料である。ロンドンだけに限らず、イギリス全土でこのような感じだ。
【エリア別】ロンドンの入場無料の美術館リストの記事では、ロンドン内の主要な無料の美術館・博物館を紹介しているので、参考にしていただきたい。
この太っ腹な制度の背景には、「すべての人が等しく文化に触れられるように」という素晴らしいポリシーがある。
国際的な大手コンサル会社BCGの運営する財団「Centre for Public Impact」の記事にその歴史が詳しく載っていたので、訳したものをまとめてみる。
入館料無料制度には長い歴史があった
1960年代から、イギリス政府は国立の博物館・美術館の入館料を無料にしたり有料にしたりと政策を変更してきたようだ。
1980年以前、国立の美術館・博物館は入館料が無料であり、運営費用は国の支援により賄われていた。1980年代に、国への依存を軽減すべく政府は入館料導入を推進し、国立の博物館の約半数が徐々に入館料を徴収するようになっていった。だがあとの半分はそれに反対し、入館料無料を貫き通した。
その結果は入場者数に如実に現れた。入館料を導入したところは入場者数が減り、一方で入館料を無料にしたままのところは入場者数が激増した。
そこで再び、1997年に、政府は本来入館料で得られるはずであった収入を政府(デジタル・文化・メディア・スポーツ省、DCMS)の予算で補填し、入館料を無料にすることをアナウンスした。この施策は段階的に行われ、1999年には子どもが無料になり、2000年には60歳以上が無料、そして2001年にすべての来館者に対して無料となった。
その後イギリス内の美術館、博物館の入場者数は跳ね上がり、2010年にはイギリス内人気観光地トップ10のうち、8つが国立博物館・美術館となった。
また、国立でない施設でも、入場料無料のところもある。そうした施設は、地方自治体が補助をしていたり、大学などの教育機関が運営していて無料で公開していたりする。
無料の施設の収入源
こうした無料の施設の収入源は、ざっと考えただけでも以下のようなものがある。
- 上述したように、国の補助金
- 館内のショップや飲食店、サービスの利用料
- 特別展、企画展のチケット料金(常設展は無料のところも、ほとんどは企画展が有料である)
- 寄付
- 国内外への所蔵作品の貸し出し
- 施設外のイベントや研究などへの協力や提携に対する報酬
この他にももちろんあるだろう。
イギリスの美術館・博物館には、入口に寄付を募る設備があり、また企画展のチケットも寄付込みか寄付なしかを選べるところが多い。余った小銭があったり感謝の意を表したかったりしたら、少し寄付していくのをおすすめする。
また、ナショナルアートパスという、年額を払うと加入施設の特別展が半額や割引になるパスもある。パス料金は年間70ポンド(30歳未満は45ポンド)で、加入している施設への間接的な助け(寄付)になるのだ。
私は個々の施設であまり寄付をしない代わりに、これに入っている(し、特別展もよく行くからお得というメリットもある)。
このアートパスを運営しているArt Fundという組織は、入館料無料へ向けての活動を牽引した機関でもある。
このパスについて詳しくは以下から。
入館料無料にしたことの経済効果
イギリスのミュージアムを統括する組織NMDCの公表しているデータによれば、入館料を無料にしたことで以下のような経済効果が見られたという。
- イギリスのクリエイティブ業界をインスパイアし、発展させる役割を果たしている。イギリスのクリエイティブ業界はイギリス経済のうち590億ポンド、またGDPの5.6%を担っており(2013年のデータ)、他の欧州国の2倍である。
- イギリス経済のうち、だいたい1000ポンドにつき1ポンド、つまり約1/1000が直接美術館・博物館と関連している。
- イギリス内のメジャーな美術館・博物館の経済効果は年間計15億ポンドと見積もられている。これには施設での雇用や、グッズ、サービスの売り上げ、施設のある周辺地域でのお金の動きも含まれている。
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イギリスは博物館・美術館好きの人間には優しい国だ。イギリスを訪れたら、この入館料無料の恩恵をぜひたっぷり享受し、さまざまな芸術や文化、創造性に触れてもらいたい。
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