異文化から目を反らすのは精神的な自殺である、という話。

アート情報・考察
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異文化から目をそむけるのは、芸術面だけでなく、精神的な自殺行為です。

産経新聞の「話の肖像画」というコラムを読んでいて、この言葉を見つけた。アメリカの映画監督マーティン・スコセッシのインタビュー。スコセッシの最新作「沈黙—サイレンス—」は日本でも最近公開が始まった。

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違う文化の人々がどう感じているかを知ること

スコセッシは、映画から人生のあらゆることを学んだと言っている。

映画を見て、人間の感情、道徳観などを知りました。そして世界中の異文化に興味を持つようになりました。

『雨月物語』(溝口健二監督)は私にとって最初の日本映画です。その映画を復元(2016年に4Kデジタル修復を行った)しました。復元の目的はこうした映画を若者に見てもらいたいからです。世界の文化に触れ、違う文化の人々が何を感じ、どう思っているか理解してほしい。異文化から目をそむけるのは、芸術面だけでなく、精神的な自殺行為です。復元作品を見て、「あんな映画を作ってみたい」とか「絶対にああいう映画は嫌だ」と反応するのを見るとうれしくなります。

これは私の心に深く刺さった。異文化を見ないことは、精神的な自殺行為。その通りだ。心は広がりをなくし、狭い世界で自己完結してしまう。

スコセッシは、異なる文化を認めろ、受け入れろ、とは言っていない。異なる文化と向き合え、と言っているのだ。共感できなくてもいい、受け入れられなくてもいい。ただ、異文化をなかったようにはしないこと。知ろうとすること。これが大事なのだ。

これは、最新作「沈黙 -サイレンス-」にもありありと出ているメッセージだ。

この作品は、キリシタンが迫害される17世紀の日本にたどり着いたキリスト教宣教師が、日本で布教を試みるも、目の前で迫害を目の当たりにし、「信仰」という壁にぶつかる話だ。

スコセッシは、キリスト教の司教から、「君が本当に信仰について知りたいのなら」と「沈黙 -サイレンス-」の原作となった遠藤周作の「沈黙」を渡されたという。この小説はキリスト教界では反発もあったようだが、「遠藤は20世紀のキリスト教文学で最も重要な作家である」という評価も受けている。

日本人の書いた、キリスト教宣教師の話がキリスト教界で評価されているのだ。これはすごいことだ。

「本書は私に滋養を与えてくれた数少ない芸術書の1つ」

スコセッシはこの小説を芸術書と言った。私も同感である。美しい本だった。

インタビュー全文はこちら。→話の肖像画プレミアム マーティン・スコセッシ(74)=米映画監督=作品はエネルギー全てを注ぐ

映画「沈黙 -サイレンス-」は「考える」ための作品

私の住むイギリスでは日本に先駆けて、「沈黙 -サイレンス-」を上映しているので、見に行った。

小説をとても忠実に再現していて、素晴らしい出来になっていた。

私は原作を読んでから映画を見たけれど、やはり本を最初に読んでから見てよかったと感じた。

映画から入ってもいいけれど、小説はその心理描写が驚異的なのだ。言葉にされていることで、よりはっきりと、登場人物の心の動きがわかる。映画だと、どうしても映像頼みになるので、説明がはっきりとされていないこともある。

これは宗教の物語ではなく、個人の信仰の物語だ。何を信じるべきか、信仰とは何か、人間とは何か。

知らない文化をどう扱うのか、というテーマ

日本人の大名が、宣教師に言う。「あなたは日本を知らない。」
宣教師は返す。「あなたもキリスト教を知らない。」

ここにすべてが詰まっていると思う。

お互いのことを知らない者たちが、どうやって理解しあっていくのか。日本人はキリスト教をどうとらえたか。キリスト教宣教師は日本をどうとらえたか。文化はどう根付くのか。それぞれにとっての信仰とは何なのか。映画を見ている途中に何度も考えることになると思う。

共感できたり、反発心が芽生えたり、感動したり、ふざけんな、と思ったり。でもそれでいい。そういう話なのだ。これは。何が正しいか、正しくないかをジャッジする作品ではなく、「考える」ための作品だ。

1つ、映画のマイナスポイントをあげるとするなら、宣教師はポルトガル人で、残りの登場人物は日本人なのに、全員英語なこと(笑)。ポルトガル人はともかく、日本の農民まで英語がペラペラで、違和感があった。

日本人の侍がポルトガル人の宣教師に向かって「私の英語が拙くてすまない」とか言っているというカオス。

原作でも映画でも出てくる、通詞(当時のポルトガル語—日本語通訳)役がいて、この通詞が原作ではある種のサブ・キーパーソンになっているのね。でも映画だと皆英語しゃべるから通詞の重要性も薄れてしまって残念だった。

それでも、浅野忠信演じる通詞は、ものすごいはまり役で、演技も絶妙だった。

この言語の問題を除けば、本当に素晴らしい映画だった。個人的には10点中9点。でも大衆受けはしなさそうな、大人の映画でした。

小説の「沈黙」についての感想はこちらから。

【小説感想】「沈黙(サイレンス )」は宗教ではなく信仰のものがたり
現在(2017年2月)公開中の映画「沈黙—サイレンス—」の原作、遠藤周作の小説「沈黙」について、その素晴らしさ、読みどころを書いていく。映画版の感想と、監督スコセッシの言葉についてはこちらから。ここでは、ネタバレというか話の筋をもとに書いて

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