ロンドンでオークション美術品を鑑賞できるナイトイベント「Christie’s Lates」

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ロンドンには、美術館や博物館で特定の日の夜に開催されるナイトイベントがたくさんある。

世界的に有名なイギリスのアートオークション会社「クリスティーズ」で月1回行われる夜の特別イベント、「クリスティーズ・レイト(Christie’s Lates)」もその1つだ。

入場は無料で、これからオークションにかけられる美術品の品々をゆったりと見ることができる。中にはバーも併設され、お酒を片手に会場内を回れる、ちょっと大人のアートイベント。

絵画、彫刻だけでなく家具や調度品、日用品などさまざまなジャンルの芸術品を鑑賞できるのが魅力。また、オークション用の商品なので値札がついており、価格もチェックできるのはオークション会社のイベントならではだ。

今回は、先日行ったクリスティーズ・レイトの様子も含め、このイベントについて詳しくお伝えしよう。

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月替りのテーマ

このイベントが行われるのは、毎月第二月曜日。毎回テーマが変わって入場者を飽きさせない仕組みになっている。

展示だけでなく、その他のイベントもテーマに合わせてその都度変化し、ライブミュージック、アーティストのトーク、参加型クイズコーナー、ワークショップ、アーティストの作品出品ブース、ワインテイスティングなどさまざまなものがある。

この時参加した9月のレイトのテーマは、「Into the Wild」。

南アフリカ出身の現代彫刻家Dylan Lewisをゲストとして招き、彼の作品を多く展示していたこの回は、南アフリカと関連したイベントが企画されていた。

Dylan Lewis「さまよう破片」2000年 4,000〜6,000ポンド

彼は自分が生まれ育った土地で実際に目にしてきた動物たちや、奇妙な形態をした人間像を生き生きと彫り出す。このイベントで初めて知った作家だったが、完全に惚れ込んでしまった。彼の作品群については記事の後半で詳しく紹介しよう。

ロンドン中心部の高級エリアにある会場

会場は、ロンドン中心部のラグジュアリーなエリア、セントジェームスにある。
イベントは18時半〜20時半まで。予約は不要で、会場に行けばそのまま無料で入ることができる。

また、公式サイトからメールアドレスを登録すると、レイトを含むイベントのお知らせを定期的に配信してくれる。

中は多数の部屋に分かれるギャラリースペースとなっている。こちらは展示室をつなぐ廊下。廊下にも作品が展示されている。

バーではビールやワイン、カクテルなどの飲み物を購入できる。もちろんソフトドリンクもある。

軽食コーナーも出ていた。4ポンドでソーセージと惣菜を味わえる。

幅広いジャンルの美術品を展示

テーブルランプ 19世紀後半 フランス 2,000〜4,000ポンド

会場内では、広いスペースに幅広いジャンルの作品を展示している。こちらはマーブル模様が美しい石でできた卓上ランプ。

アントワーヌ=ルイ ・バリー「テセウスとケンタウロス」3,000〜5,000ポンド

生き生きとした躍動感が伝わってくる彫像。ギリシャ神話のアテネの王、テセウスが半獣半人の怪物、ケンタウロスを打ち負かすシーンだ。人体と馬、隆々とした筋肉を持つどちらの肉体も見事に表されている。

ギャラリーの端の方にはリビングルームを再現したような素敵な一角が。

このイベントでは、出品されている家具(椅子やソファーなど)に座ることもできる。

源龍斎 誠谷「猿」明治時代 4,000〜6,000ポンド

ここでは日本の彫刻作品を見ることができた。「誠谷鋳」という刻印がしてあるという。モサモサとした毛並みは、思わず触れたくなってしまう。後ろ足にタグを付けられているのが、ポーズも相まって罠にかかった瞬間のように見えて面白い。

椅子 インド 20世紀後半 1,500〜2,500ポンド

なんかすごい顔をした虎の椅子を見つけた。これは二脚一対のようだった。部屋にあるのを想像するとなかなかシュールである。

壁掛け鏡をぐるりと取り囲む、水生生物が施された飾り用の皿シリーズ。目を引くカラフルさもさることながら、エビやカニなどの生き物がリアルで気に入った。

長谷川契華 12連の菊版画 2,000〜3,000ポンド

明治時代の絵師、長谷川契華の版画作品。さまざまな種類の菊を描いた版画で有名だった画家で、繊細なタッチと、ぼかしや濃淡を用いた見事な多色刷りが見どころだ。一見すると全然別の種類の花かと思うほど、菊にはいろいろな種類があることが、こうやって描き分けて並べられるとわかる。

ネフ 1900年頃 ドイツ 3,000〜5,000ポンド

地図が描かれたロマンあふれる卓に乗った、金色の船。ここは一際、雰囲気のある空間となっていた。

「ネフ」とは、船型の卓上容器。テーブルの上のナプキンを抑えたり、カトラリーや調味料を入れたりするのに使われたという。これは車輪がついているから、卓上を移動させることもできたのかもしれない。

しかし、何とも豪華な卓上用品である。これにスプーンやフォークを入れるのか……(違う用途かもしれないけれど)。

テーブルの方はイタリア製で、こちらも19世紀〜20世紀初頭の作品。この組み合わせだと、まるで船がテーブル上の海を走っているように見える。

椅子 モロッコ 800〜1,200ポンド

二脚あった、色とりどりでエキゾチックなデザインの椅子。ちょっと東南アジアの派手な色のお寺や建築物も思い出させるような感じ。値段は二脚セットのものだろうか……。

カクテルキャビネット 1960年頃 4,000〜6,000ポンド

4つの扉に、ルナ、サトゥルヌス、アポロ、マーズの四人の神々が描かれたキャビネット。カクテルキャビネットとは、文字通りカクテルを作るための家具だという。中にはカクテル用品やお酒を収納できるようになっていて、扉を水平に開いてバーカウンターのようにし、その上でカクテルを作ることができたとか。

ゲストが来た時にこれでもてなしたのだろう。何とも洒落た家具である。

今回限りのイベントも豊富

今回は南アフリカがテーマということで、アフリカに関連したさまざまなイベントが開催されていた。毎回このように違うテーマの催しが楽しめるのも、このレイトイベントの特徴の1つ。

チョコテイスティング

アフリカのさまざまな地域のカカオを使用したチョコレートブランド「Firetree」の試食ブースが出ていた。

カカオ99%から70%まで、さまざまな濃度のチョコレートを食べ比べ。私は70%のものが苦味と甘味のバランスが良く、一番気に入った。フレーバーもかなりバリエーションがありなかなか楽しい。その場で商品をお買い上げもできる。

今回、南アフリカ産のワインテイスティングも開催されていたという。ワイン専門家が選んだとっておきのものだったらしいが、時間が限られており、私が入ったときにはもうすでに終了していたのだ……残念……。

異国感あふれる音楽パフォーマンス

途中から、突如中央階段の付近で音楽と踊りのパフォーマンスが始まった。「Imbube UK」という団体による、南アフリカの伝統を受け継いだ音楽だそうで、ものすごいパワーがある。周りもノリノリであったが、そうさせてしまうエネルギーがあった。

アーティストトーク

今回の展示の目玉である彫刻家、Dylan Lewisによるアーティストトークが大きなギャラリーで行われていた。これも私が行った頃はちょうど終わる時だった(涙)。かなりの人数が集まっており、周辺は激混みであった。

次のイベント(南アフリカの旅行・探検についてのトーク)が始まる前に、奥に展示されているタペストリーを見に行った。これ以上近づけなかったのだが、女神を中央に天使たちが舞う、美しい作品。画面内の青と赤の対比が綺麗だ。

さて、ここからはこのイベントで鑑賞できたこの南アフリカ出身の彫刻家、Dylan Lewisの作品を紹介していこう。

南アフリカ出身の彫刻家Dylan Lewisの個展

今回、3〜4ほどの展示室を大胆にDylan Lewisの個展に割り当てていた。展示のタイトルは「変身(Shapeshifting)」。

彼の作品もオークションに出品される予定のものだ。

「岩の上を歩く豹」2012年 3,000〜5,000ポンド

豹の彫像。その形の下にある皮や骨、筋肉をありありと感じられる。

この角度から見ると、そろりそろりと、起伏のある岩場を歩いている様子がより強調されているように見える。

テーブルの脚も実は3体のチーターになっていて、とてもいかす。こちらは7,000〜10,000ポンド。

「豹のペア」2012年 5,000〜8,000ポンド

じゃれあう二頭の豹。兄弟なのかカップルなのか。頭を擦り付け合っている光景がそのまま映像として浮かぶような作品。仕草がとてもリアルで、この観察眼はやはりずっとこうした動物をその地で見てきたからなのだなあ、と思わされる。

「変形する男性」2011年 5,000〜8,000ポンド

数は少ないが、人の形をした作品もある。これはすでにレイヨウのような頭に変わりつつあるので、半獣半人と言うべきか……。この背景にある物語を知りたくなる。自身の角をつかんで身を悶える男には、一体何があったのだろうか。人間の中に潜む野生の表れだろうか。

「毛づくろいをする豹」1996年 15,000〜20,000ポンド

するよね、こういう格好(笑)、と思わず笑みが漏れた。この動物の日常的な一瞬を写真のように切り取り、彫刻の形に閉じ込める。そんな作業をこの作家はしている気がするのだ。初めて知った彫刻家だったが、見ているうちに、どんどん好きになっていった。

そしてこのチーターの像。見た瞬間息を呑んだ。等身大(か、もっと大きい?)のかなり大型の作品。この躍動感とムーブメントの表現は尋常ではない。

キッと見据えた視線の先に獲物まで見えるようだ。土を蹴り、次の一歩を出そうとしている体はしなやかで、力強く、生命力に溢れている。この作品に、彼の本領がいかんなく発揮されている、そう思った。

見惚れすぎて、キャプションを確認するのを忘れてしまったほどだ。

ちなみに、彼の作品を自然の中に設置したところを捉えた写真もあった。これはこれでかなり素敵だぞ……。

別の展示室に入ると、大型の作品が次々と目の前に現れた。ただでさえ大型肉食獣が好きな私にとっては、この技巧を持ってしてこんなにも躍動感たっぷりに作られたら、たまらない。

正面から見ると、こちらに全速で走ってくるような2頭が見える。いろいろな角度から見ると、印象が少しずつ変わって楽しい。写真だとわかりにくいけれど、この角度から見た前脚が特に「走り」を見事に表現していて素晴らしい。

こちらもしばらく釘付けになった作品。この頃になるともうキャプションを見る余裕などなかった。

必死に逃げる獲物に、チーターが今まさに爪をひっかけようとする瞬間を切り取ったものだ。自然ドキュメンタリーで流れるチーターの狩りの場面を思い出す。全速力で走り、獲物に追いついた瞬間、速度をふっと緩める(少なくともそのように見える)あの場面が、そのままこの作品に重なる。

レイヨウの反らせた頭からチーターの尻尾の先まで、1つのつながりとして流れるような動線があり、空気感、スピード感まで再現された作品だ。自然の荒々しさと、生と死、すべてがここには詰まっている。

起きている時の鋭い眼光や身のこなしからは打って変わって、だらり、と木の上でリラックスして眠る豹。何だかこんな生き物がロンドンのど真ん中、キラキラ夜景が光る街の中にいることを考えると可笑しかった。

というわけで、何が見られるかあまり予測しないで訪問したが、素敵な作家を知ることができたのは思わぬ収穫。こういうことがあると、とても嬉しい。


このクリスティーズのイベント、月に1回しかないが、アート好きの人にはぜひおすすめしたい。詳細は公式サイトでこまめにチェックしよう。

その他、博物館のレイトイベントの例はこちらから。以前仕事で寄稿したもの。

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文/塚田沙羅(海外書き人クラブ/ロンドン在住ライター) イギリスには、ロンドンの大英博物館を筆頭に有名な博物館、美術館が数多くあります。こうした施設はたいてい午後5~6時で閉館してしまいますが、特定の曜日に夜間開館してい…

Christie’s Lates

住所:8 King Street London SW1Y 6QT

毎月第二月曜日開催、入場無料

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